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出血のせいか頭がクラクラする。
入り組んだ路地裏は迷路の様な作りで、来た道すら覚えるのは難しい。
気がつけば住宅街を抜け、辺りは街頭の少ない通りに出ていた
その近くには古びた寺院があった。
誰も手入れをしていないのか、周囲には雑草や木々が生い茂っている。
仏教を重んじる国にしては、手入れが全くされていない状態はだいぶ不自然にみえた。
「はぁ…ひとまずここで休もう」
手足の指先が冷たくなっている。
思った以上に出血があったようだ。
古びた寺院の中にはもちろん人はおらず
しんと静まり返りっている。
寺院の中には何かを祀っているようだが、
蝋燭が灯るのみの室内は目をこらしてもはっきりとは見えなかった。
暗殺を生業としてた俺にはアジア圏は苦手分野でしかなかった。
いろいろな国の言語をマスターした俺にさえ、
漢字は強敵だ。
寺院の壁にはたくさんの札のような物が張り巡らされていたが、意味も分からず不気味なそれをジッと見つめるしかなかった。
「……きっと…が……れるわ」
ふと、韓国へ入国前の出来事が頭をよぎった。
ニューヨークのスラム街にある孤児院に捨てられていた俺を、12歳まで預かっていてくれた場所に出向いた時だ。
「お兄ちゃん!」
孤児院で1番小さい妹が駆け寄ってきた
「エマ、久しぶりだな」
「お兄ちゃんってばなかなか来ないんだもん!」
「ごめんな、仕事が忙しくて…」
小さな頬を膨らましながら怒る様子を笑いながらみていると、孤児院の扉から見慣れた顔が声をかけてきた。
「来てくれたのね」
「シスター、お久しぶりです」
中に入るように促されたが、
別な目的できていた。
「これを預かって下さい」
なんだろうと渡した書類に目を通していたシスターの表情が曇る。
「…これは……預かれないわ…」
「お願いです、頼める方がいないんだ」
そう言うと、
眉間に皺を寄せながらため息を漏らしていた。
手渡したのは財産の権利証から土地や株、貸金庫の鍵や私財に関わる関係の全てだ。
「あなたにはこの孤児院の為にたくさんお金をかけてくれたわ。こんな……
もう、2度と帰らないつもり?」
12歳までシスターは俺を育ててくれた人だ。
薄々、どんな仕事をしてきたか気がついていたのだろう。
今にも泣き出しそうな顔には昔とは違い、深く皺が入っている。
もともと、スラム街の孤児院なんてゴミ捨て場のような状態だった。
親がいない、ドラックや売春、強盗が当たり前の日常だ。
それを立て直し、子供達を慈しんでくれたのはシスターだった。
いろいろな苦労を抱えて居たのも周知していた。
「ごめんなさい。」
泣き顔を見ていないように振る舞うその一言、
今はそれが精一杯だ。
広場では子供達の笑い声が聞こえていた。
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