第五章 鬼神ウシク

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ハクマンと言う村は、ヒョンゴ村から10キロ程離れた場所にある、湯治の宿場村だ。 高麗でも有名な湯治場は、各地から治療に来る人々で賑わっていた。 場所により効能がある源泉が至る所で湧き出てるので、町程に栄えている。 足では無理だからと、馬を使って移動したが、着いた頃には慣れない腿の辺りが、擦り傷になっていた。 乗馬は本当苦手だ… 温泉があると最初ウォルは喜んでいたが、 師匠から「スリ」と言う女の話を聞くと、 突然不機嫌になった。 いつも滞在中に泊まると言う宿場に荷物を置き、不機嫌なウォルを引っ張りながら、 村を散策することにした。 「ウォル!あーんして!」 機嫌をとるならこれかな…と、近くの屋台から甘いヨッカンジョンを買って口に入れた。 「美味しい…」 頬に手を当てる時は本当に美味しいの時。 笑顔が戻って、 俺は心の底からホッとしていた。 ーーー師匠ははっきりとした場所を教えてくれなかったので、村の中で目立ちそうな場所で待ってみることにした。 「あの橋の付近がいいかな」 師匠から預かったノリゲを、帯の所から見える様に垂らして、橋の近くで待つ事にした。 しばらくして、橋の後方から鮮やかな赤い着物を着た女が歩いてきた。 髪は三つ編みを高い位置で頭全体に巻き、 艶やかな黒髪には、玉の簪を刺している。 見るから、村の人間ではない事が一目でわかった。 俺の前に立ち止まると、一礼し、ついてこいと促した。 不審に思いながらも、言われた通りについていく。 しばらく行くと、宿場の奥に 茶色の土壁に囲まれた「栫徐教坊」と書かれた、大きな木の看板が見えてきた。 「ソ…ンジョ?」 道案内の女は木で作られた門を慣れた手付きで 2回、1回と軽く叩いた。 ギギッー…… この後、どうしていいのが分からず思わず再度ウォルに助けを求めようと目線を送ったが、 肝心のウォルはさらに、ムスッとしたままだ。 …仕方ない、流れにまかせよう。 促されるままに、門の中へ一歩足を入れると広い庭の中心に、大きな屋敷がある。 その時ー ブンッ‼︎ 鮮やかな色のチョゴリが空を切りながら突然、 女が襲いかかってきた。 その服の重みも感じさせぬ俊敏な動きで次々と拳を振り上げる。 隙を見て女の手首を押さえ込み、動きを止めた。
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