第六章 ソンジョ教坊

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小間使いに指示を出し、何かを運ばせてきた。 卓の上に光沢のある布が置かれる。 広げると、そこには一本の刀が包まれていた。 「この刀はウシク様から依頼を受けて、刀鍛冶に打たせた貴方の刀です。」 「俺の…?」 スリがニコリと微笑んだ。 全体は黒で統一されているせいか、見た目は重そうだ。徐に手に取ってみた。 「軽い…!」 見た目に違わず、その刀は軽くできている。 「兵士が使う刀は西方から搬入されています。 鉄の粉が原料となり、戦になれば大量に作られますが、研ぎが雑な上とても重いのです。 これなら身軽な貴方にも使いこなせると…」 「…俺の刀…」 刀を握る手に力が入る。 「黒雲が空を覆い隠し、雷雨を纏いた深淵の淵に龍が現れる。これ即ち、国路にに吉凶を左右する者。可の者こそが、神龍より恩恵を賜る人神なり。」 聞き慣れた声に振り向くと、そこにはウォルが立っていた。 「これは古文学の記述の一部よ」 そう言うと俺の腕を掴み、部屋の外へ引っ張っていった。 長い長い廊下を早足で歩く。しばらくは振り返る事もなく、ただ黙っていた。 「ウォル?」 俺の声に反応したのか、動きをピタリと止めた。 「…………ない。」 「え?」 「これは義務じゃ無いわ。おじいちゃんはああ言ってたけど、私は…私の事でレインに無理強いさせたくない…」 振り向いた大きな瞳には、涙が今にも溢れ落ちそうだ。 この世界に来てからはまだ日が浅いが、底抜けの優しさを持ったウォルの性格は大分わかってきたつもりだ。 俺への利己的な黒い感情など、微塵も感じた事がない。 己が助かりたいと一心に思う子じゃないのもわかってる。 「俺に紫雲が降りた事は偶然じゃなく、必然だったんじゃないかと…今は思うんだ。 それに俺に居場所をくれたのは2人だから…まだどうしたらいいかわからないけど、今はウォルの事を護れる様に強くなりたい。」 「レイン…」 ポロッと落ちた涙を指でそっと拭った。 その透明な雫はまるでウォルの無垢な心のようだった。
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