第八章 ある幼き日

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居室を訪れた後ー ずっと体調が優れない皇后が心配だと言う理由で、邸下には宴は辞退したいと後から話した。 妊娠後に体調を崩していた皇后を心配していた邸下は快諾してくれたが、 重臣達には私の言葉を受け入れた邸下が逆に反感をかったようだった。 ーーー客室に戻ると彼が待っていた。 「ウォル!」 極度の緊張からか、顔を見た瞬間ーーー 気づけば倒れ込むようにレインの胸の中にいた。 「大丈夫か…?」 晴天の青空の様に澄んだ彼の瞳が覗き込む。 「ご、ごめんなさい…」 「顔色が良くない」 「大丈夫よ」 そう言って離れようとしたがーーー 彼の腕に一層力が入った。 「…なかなか戻って来なくて心配だった。」 「ごめんね、皇后様といろいろ話してて」 「………もう少しこのままじゃダメか?」 耳もとで囁く、 そんな甘い言葉に逆らえる訳がない。 いつからだろう。 心地よい彼の腕の中にすっぽりと身体が埋まるこの感覚が好きだ。 最初の頃は兄妹の様に慕っていたのに、いつの間にか彼に家族以上の想いをつのらせていた。 「…も少しこのままでいて」    私らしくない。 甘えた声を出すなんて。 赤面を通り越して、沸騰寸前だ。 広い肩幅や鍛え上げたその背中は触れるだけで鼓動が更に早くなる。 生涯、独り身でも医師として生きるのは天命かと思っていた。 この人と出会う前はーーー 皇后の間にいたのは大した時間ではなかった。 でもその間、レインはただ私の事だけを案じてくれていたのだ。 私の事だけを… この人の側に居たい…… 王族など関係ない。 生涯、私の側に護衛として居てくれるだけでもいい。 ただ1人の人間として接してくれる彼を愛しいと、いつの間にか気持ちは膨らんでいた。 レインは私の事をどう思ってくれているかー その事ばかりが頭の中を巡っていた。
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