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第ニ章 月の花
「ッつ…」
どれだけ気を失っていたんだろうか。
身体のあちこちが痛む。
なぜか両手は後ろに縛られて身動きが取れなくなっていた。
かろうじて足は動くが出血のせいか、身体を起こすのに力が入らない。
「…まだ俺は死んでないようだ。」
辺りを見回すと
簡素な作りの天幕の中に倒れ込んでいたようだ
時折、隙間から入る風に蝋燭の炎がゆらゆらと揺れている。
どれだけ意識がなかったのか、明らかにさっきとは全く違う場所だ。
「なんだ…ここは。どこなんだ」
天幕の外から男2人、何か言い争いをしている声が聞こえていた。早口で話す言葉は全く聞き取れない。
アジア系だろうか…必死に耳を傾けた。
「…ぶ?」
いつの間にか外から入ってきたのか目の前には子供がたっている。顔の半分を汚れた包帯でぐるぐる巻いていた。
「大丈夫?」
不思議とその子の言葉がはっきり聞こえた。
「あ、あぁ。……ここは?」
「あなたはこの近くの寺に倒れてた、
怪我がひどかったから治療した…」
その時
外でいい争いをしていた1人がドカドカ入ってきた。髪の毛を天辺で結い上げ、服装は昔本でみたハンボとか言う伝統衣装を着ている。
「…ッ!」
ふいに髪の毛を鷲掴みに持ち上げながら、俺の顔をジロジロみていた。
すぐにもう1人が天幕の中へ入ってきて、包帯の子供に何かを命令したようだった。
しばらくして2人でどこかへ出て行った。
「あいつら何を話してたの?」
「あなたのお世話をしろ…と」
どこか不安げな目をしながら子供が話した。
「あなたの髪や目の色はこの国では珍しい。
高く売れるから…死なすなと」
…どうやら長くいるわけにはいかないらしい。
「ここは奴隷商人の天幕…
さっきの話だとあと2、3日後にはここを経つって話してた」
「じゃあ君も?」
ゆっくりと首を縦に下げた。
「傷が酷い、もう少し治療しないと…」
そう言って傷ついた部分が見えるように、服をたくし上げた。
ここから逃げ出せない不安からか、瞳には諦めの色が出ている。
「…っ……!」
「少しだけ我慢してね…」
弾が貫通した肩にそっと手を当てた瞬間、
淡い光が手のひらを包む様に光りだした。
その暖かな日差しに似た熱が、血が滲み出る傷口をみるみる内に閉じていく。
「‼︎」
「これでひとまず大丈夫」
「君は一体…」
包帯から覗く大きな目と視線が合った。
「ウォル、名前はウォル」
不思議な力の持ち主はにこりと微笑みをかえした。
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