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「俺はレイン、……怪我を治してくれてありがとう」
その不思議な力で肋の傷を治療し始めたウォルは、俺の質問に一つ一つ答えてくれた。
この国は「高麗」と言うらしい。
今の国王が3つの国を統一し、建国した大国とか。広大で肥よくな土地ではあるが、未だに戦乱が絶えない。
治安が悪い村などは当たり前のように、奴隷として親の居ない子供や女を売り買いし、
酷いときは誘拐まがいに攫い、奴隷として金持ちに売り飛ばす輩が多いと教えてくれた。
到底信じられないような話だが、話を聞きながらここが大昔の韓国ではないかー…そんな考えが困惑する脳裏に浮かんだ。
「お腹すいたでしょ?」
ウォルが奥から食事を運んできた。
死なすなと命令されたからか、食事はきちんと用意してあるようだ。
ぐうぅぅー
思いがけず鳴り響いた大きな腹の音に、ウォルの顔が真っ赤になった。
気にせず食べろと言う俺に、ウォルは首を縦に降らなかった。
「レインはちゃんと食べないと」
治癒の力は決して万能ではないらしく、
傷を塞ぐのはすぐできても、傷ついた内部を完治させるには時間がかかるみたいだ。
体力が落ちてれば治りもあまり良くないからちゃんと食べないといけないらしい。
俺はともかく、他の奴隷は食事もまともにもらっている感じがしない。
そう言えばポケットに…
孤児院に行ったあの日
エマが帰り際にお気に入りのキャンディをくれたのを思い出した。
治療中は縄をはずしてもらってたので、ポケットから小さな包みを取り出した。
「ウォル、口開けて」
不思議そうに口を開けたウォルの口の中にキャンディを一つ放り込む。
「ん!」
甘いその味が大層気にいったのか
包帯の下から無邪気な笑顔がみえる。
「美味しい…」
冷静に考えれば、このままじゃ近い内によその国へ売り飛ばされる。
ここが夢か現実か考えている余裕は無い。
今はともかく、攫われてきた他の子供達や、
せめてウォルだけでも助けたい。
あの日のエマを思い出しながら、とりあえずこの場を脱出する算段を考えていた。
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