第ニ章 月の花

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夜もだいぶ深けた頃ー… 酔い潰れた商人達は隣の天幕でイビキをかきながら寝ている。 今がチャンスだ。 そう思い体を起こした。 完全に治ってないからか、体のあちこちに痛みが残っているが、 あらかじめウォルに縄を切ってもらっていたのですんなり逃げられそうだ。 その時 寝ていたはずの1人の男が入ってきた。 俺の顔を舐める様に見ていた奴だ。 縄を外しているのが見えないように自分の手を後ろにをまわした。 近づいてきた男は、胸元のシャツがあいてるところをニヤニヤしながら手を伸ばしてきた。 どこの世界も一緒だな。    男の手が体に触れた瞬間ー… 腕を逆に捻り上げ、背中側へ回り込む。 男は咄嗟の事に声が出ず、反撃させる間もなく、腰に付けていた刀を引き抜き、 急所を突き刺した。 声をあげる間もなく、男は糸が切れた人形のように地面に倒れ込んだ。 「…腕は落ちてない」 血の臭い…手に残る感触は本物だ。 にしても、どの世界にも男好きがいるんだな。 「レイン?」 奥からウォルが走って入ってきた。 「奥に捕まっていたみんなは逃したよ!」 事前にウォルには逃げる手筈を話していたため、こっちも安心していた。 「レイン…この人…」 足元に転がっている男の死体をみて驚きを隠せないようだ。 「ウォル、下は見るな。逃げる事だけ考えろ」 そう言って、ウォルの手をとり天幕の外へ走りだした。 外には誰もおらず、 野営用に焚かれた焚き火がパチパチと燃えている。 商人の馬車に使っていた馬が2頭繋いでいたが追手を避けるため、 1頭は天幕の裏山へ逃した。 「乗って!」 先に馬に跨っていたウォルに促されて、後ろへ跨って乗った。 全く乗馬の経験もなく、初めての馬上は振動が怪我に響き、激痛が走る。 「飛ばしていい?」 顔が真っ青になっている俺を気遣ってか、急いで自分の家に戻ろうと話していた。 街灯もなく、真っ暗な暗闇を馬で走る。 目がいいのか、ウォルは月の明かりだけを頼りに馬の手綱を握る。 慣れているのだろうか。 振動に傷口が開かないか心配になり、傷口に強く力をこめた。 そんな俺を察してか、ウォルは馬から落ちないようにしがみつけと、腕をひっぱった。
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