第ニ章 月の花

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どれほど時間が経ったのだろう。 馬も走り続けたせいか、息が上がっている。 どうにか、スピードを落としながら河の側までたどり着いた。 追手はきてないようだ。 闇夜だった空は少しずつ明るくなっている。 しばらくすると遠く河の向こう岸から、無数に灯りが近づいてきた。 「ウォル!無事だったか⁈」 「師匠!怪我人がいます!……レイン?」 ホッとしたせいかウォルにもたれ掛かっていた俺は意識を失ったー 「レイン!」 ピチョン…… 何か、遠くで 水が落ちる音がする。 ついに死んだんだろうか? …ピチョン…… 目をゆっくり開けると、辺りは果ての見えない暗闇が広がる あの怪異の巣だろうか。前にも見覚えがある。 足元には水の様な真っ黒い液体が 足首まで浸かっていた。 ククッ… 「其方はほんに愉快だな」 脳に響くこの声の主は… やはりあの真っ黒い怪物か。 その時、フッと頭の中に言葉が浮かんだ。 「紫雲…?」 「そうだ、我の名前だ」 「なんで……お前の名前なんか…」 気味が悪いーー 聞いたわけでもないのに、不思議と手に取る様にわかってしまう。 「…俺を殺してくれるんじゃなかったのか?」 そう言うと、巨大な怪異の全貌が頭上に現れた。 不気味で真っ黒いその体は大きな鱗で覆われている。 「……本物?まさか、龍…⁈」 自分の目を疑うほど鮮明に浮かぶその肢体は、 まるで蛇のようにとぐろを巻き、ゆらゆらと空を漂いながら浮かんでいた。 「殺す?神に禁忌を犯させようとするなど、其方ほどのうつけ見たことないわ」 ニヤリと笑うたび見える不気味な牙は、なんでも貫通させそうな程鋭利だ。 「神を恐れぬ欲人よ。我の命を分け与えた。」 「どう言う事だ⁈」 「其方の生き様がみたくなったのだ。我が神だとわかっておりながら、其方は死を望み、請い、侮辱したのだ。」 「!」 ククッ…… 「存分に生を味わえ」 そう言うと龍は煙の様に闇へ消えた。
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