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第三章 新たな世界
「…ン」
「レイン」
心配そうなウォルの声が聞こえる。
「…俺…」
「もう大丈夫よ、安心して」
薄ぼんやり見えていたシルエットが徐々にはっきりとしてくる。
「ウォル…?」
「あぁ包帯?…実は嘘ついてたの。ああ言う輩は若い娘にひどい事をしかねない。
だから顔に触ると病にかかるって言って難を逃れたの。」
勘違いさせて悪かったと笑顔でウォルが言った。
包帯を取ったウォルは長い黒髪を後ろで纏めて結んでいた。
蝋燭の灯りとは違い、日差しがあたるその横顔はお世辞なしに美人だ。
「レイン、ごめんね。あなたの服はおじさんに頼んで着替えさせてもらったわ」
「…ありがとう…。」
そう言うとニコッとウォルが微笑んだ。
また手をかざしながら治療を続けていたウォルの後ろに、真っ白い髭をたくわえた老人がこちらをジッと見ている。
「孫娘を助けてくださり、ありがとうございます」
気品を感じさせる白地の韓服を着た老人が深く頭を下げていた。
髪はてっぺんで結衣あげてはいるが、どことなく知的な風貌だ。
「…貴方はこの国の方ではないんですね?」
そう言う老人に隠す必要が無いと思い、今までのいきさつを2人に話す事にした。
あきらかに信じれる内容ではなかったが
2人は最後まで静かに俺の話を聞いてくれた。
その後、老人はしばらく長い髭を触りながら、黙りこんだ。
無理も無い。
本人でさえ、現状に思考が回らない。
「私はウォルの祖父のウシクと申します。
……是非、こちらに留まり、孫娘の護衛をお願い出来ませぬか?」
「……え?」
「突然の無礼をお許し下され。
元の世界には戻れない事情がおありだ。
貴方がこちらにとどまってくれるなら…
尚更お願いしたいのです。」
「え…でも、俺は…」
「話を聞く限り、貴方は龍を体内に宿した宿主……古き文献の記述によれば、この国では神降しを吉凶の前触れと言い伝えがあります。」
神降しー…
吉凶?
紫雲とか名乗った黒龍は本当に神なんだろうか…
未だに確信が持てずにいた。
「護衛と言うのは建前なのです。
お互いの安全を第一に、孫娘の側にいた方が良いでしょう」
目の前の老人は真っ直ぐ俺を見据えていた。
「神を宿しているなら、力を誇示させる為の政治の道具として、四方から非道な扱いを受けかねない。
この国は大国にはなったものの、情勢は未だに不安定。
力を持った豪族達が国を手中に収めようと日々暗躍しているのです。
王権への裏切りにより、いつまた大きな戦が起きるともしれない。
…孫娘は産まれながらに治癒の能力を持ちますが、国を揺るがそうとする者どもに広く知られれば、貴方同様、
いずれ戦乱の道具にされかねないのです。」
「……。」
「住まいや身元はご安心くだされ。」
老人の言葉に考えがうまく纏まらない。
一度にわけがわからない事ばかりで、頭の中はいっぱいいっぱいだ。
けど、これがあの龍の思惑か?
この子を守る為、誰かの為に生きろと?
死を目前にしていた俺には、俺がここにいる事実も受け入れ難い現状が目の前に広がっている。
「…すみません、まだ頭の中が整理つかなくて」
「おじいちゃん病人に変な事言わないで。さぁ気にせずゆっくり休んで。」
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