第三章 新たな世界

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ゆっくり考えてみて欲しいと老人は言って 部屋を出ていった。 「ふー…」 白く塗られた天井。 窓からはそよそよと風が入り、 天井から吊るしてある薬草が揺れていた。 痛みはもう無いが、全身の力が抜け落ちたようだ。 「…本当に大昔の韓国なのか、ここは…。」 気づくと、左手の手首に何か付いている。 寝巻きの袖を捲り上げた。 手首には編み込まれた紐に、水晶に似た石が結んである。 いつの間に…? 左肩に違和感を感じ更に袖を上げた。 「⁈」 肩には黒い鱗の様な大きな紋様が入っている。 「その珠は肌身離さず持っていろ」 ズキンッーー 紫雲の声が頭の中で聞こえる。 「…俺に神が命を与える程の価値があるのか?」 ククッ… 俺の問いかけには答えないまま、紫雲の気配がスッと消えた。 しばらくすると、外からウォルの声が聞こえてきた。 部屋の扉を開けて、声のする方へゆっくり歩き出した。 家の中は白い土壁で作られていて、簡素ではあるが清潔感のある伝統家屋調だ。 元々、暗殺の依頼があれば世界各国を飛び回る生活をしていた。 だが、今は目にみえる物全てが初めてだ。 壁に寄り掛かりながら、土間を抜けて外へ出た。 いつの間にか陽は高い位置にのぼっている。 しばらく寝ていたせいか、差し込む光が眩しくて、反射的に腕で覆った。 夢なんかじゃない… 家の前には無数の畑が広がっていて、牛を使い畑を耕す人々がいる。  付近には木と土壁で作られた家々が立ち並んでおり、ハンボを着た子供達が遊ぶ姿が見えた。 「痛みはない?」 そう言いながら、ウォルが駆け寄ってきた。 竹籠いっぱいに薬草の様なものを持っている。 「……あぁ。」 「ほんとに?」 小さく返事を返す俺を大きな瞳でジッと見つめてきた。 …俺に護れるのか? 今まで1人だった。 だからこそ、答えが出ない。…自信がない。 あの時に生きる目的を手放して、死ぬつもりだった。 あの怪異が言うのが間違いなければ、俺はあいつに生かされた。 本当に神なら、もらった生命に何か意味があるのだろうか。 頭の中はすでにキャパオーバーだ。 これからどうするべきか… 黙ったまま、目の前に広がる風景をただみつめていた。
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