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一.刃
冷たく光る二枚の刃。
鋏はその刃が一つに重なり物を切る。
切った際に刃物同士が吸い付くように体を重ね合わせる。
その姿に人が年月を重ねるほどに距離を縮める人世の縮図を見た。
ある一人の鍛冶屋が生み出した鋏。
いつしか切れないものはないと評判になった。
ただ、一つ。
ただ、一つだけ切れなかったもの。
悲しい鍛冶屋と小さな童の未来を
その鋏で切り開くことはかなわなかった。
時は江戸末期。
世の中が刀を捨て、新しい時代を
切り開こうと歩んでいく前の話し。
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