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子供の世話を終え寝かしつければ、もう夕方も近くなっていた。
「それで隊長。何で私まで一緒にご飯食べてるんでしょうか?」
「食事中に喋るなよ、行儀が悪いな。お前何処の隊の奴だよ」
八城は桜を小馬鹿にするように手に持ったフォークを向ける。
「本日付けで、八番隊になった者ですが……隊長バカにしてますよね?」
桜は八番隊を含む、孤児院の面々と晩を囲んでいたが、中でも一際目立つのはブロンド髪をしたシスター姿の女性だ。
「桜さんごめんなさいね、八城君は隊長の権限を自分の良いように使うから、嫌なら嫌とちゃんと言った方がいいわ」
「あっいえ、マリアさんが謝ることじゃないですから!」
桜は斜向かいに座るマリアに小さく会釈を返すと、マリアはたおやかな笑みで小さく笑ってみせた。
マリアは見窄らし孤児院には似つかわしくない整った顔立ちに、日本人離れしたブロンド髪を靡かせ、翡翠の瞳を宿した生粋のイギリス生まれ。
だが、四年前の事件以来帰国出来ず空港内で一華と八城に拾われ今は孤児院で子供の世話をやいている。
「隊長には言うには言ったんですけど、聞いてくれなくて……」
「ふふ、ちゃんと言えば八城君優しいからきっと分かってくれると思うわよ。」
微笑むマリアに対して苦い笑顔で答える桜。
「私だって隊長を少し前まで尊敬していましたけど……」
「なにその口ぶり?今は尊敬してないみたいに聞こえるんだけど?」
「……ほら、これですよ?」
桜は自分が抱えていた英雄像が崩れていくのを感じる。
それにもぐもぐと口いっぱいに物を詰め込んで隣に座る少女も隊員だと言っていた。
それはつまり紬も八九作戦の英雄の一人ということだろう。
「はぁ〜……」
「むぅ……人の顔を見てため息をつくなんて失礼極まりない。大迷惑」
桜は睨む紬の視線から逃れるように周りをぐるりと見渡すと、笑顔の子供と目が合った。
「あれ?そう言えば八九作戦の時、最終防衛ラインになったのが孤児院だって聞きましたけど、ひょっとして……」
「ん?ええ、私たちの孤児院よ。避難勧告が出たから全員無事だったし。逃げ後れた子達も八城くんのおかげで全員無事だったから良かったんだけど……建物はね……それで代わりに八城君がここを紹介してくれたのよ」
マリアは八城に薄く笑いかけ、八城は逃れるようにそっぽを向く。
「悪い人じゃなさそうですけど……でも!」
どうも今の八城と英雄のイメージが乖離していると桜は思う。
着々と食卓のおかずが無くなり、釈然としない桜を他所に、全員が夕餉を済ませひと心地ついていると内線の電話の音が部屋中に鳴り響いた。
「はい八番隊」
紬はすぐさまそれを取り「了解」と一言後電話を切った。
「八城君、八時じゃないけど、全員集合」
「……お前何処でそんな事覚えたんだよ……そもそも年代じゃないだろ。まぁいいや、じゃあ行くか?桜、支度しろ」
「?」
どこに?と聞く桜の表情を前に八城はニヤリと笑って見せた。
「ババ抜きだ」
三人が向かったのは中央のド真ん中にある建物。
通称コロシアムと呼ばれる場所である。
道すがら他の隊員達も同じ場所に向かっているのを見れば本当に全員集合なのだろう。
コロシアムの自動扉が開き、地下に向かうと中央ほとんどの隊員がそこに居た。
そして先頭に立つのはもちろん議長である柏木だ。
「今回の候補ルートの決定を行う。隊長は前に出て一枚カードを引いて行ってくれ」
前を見ると三、八、十一、十七とその他と区分分けされている。
「しゃあ!行ってくる」
「八城くん、いいの求む」
「急の事で何が何だか分かりませんが!とにかく頑張って下さい隊長!」
全員でハイタッチしながら八城を壇上へ送り出した。くじの順番はNo.順。
つまり、八城のクジは二番目だ。
絶対にいいルートを引き当てなければと思いながら八城はカードを一枚引き。
膝から崩れ落ちた。
「八番すまないな、私の隊にこんないいカードを残して貰って。」
横目に笑いながら十七隊の隊長が壇上を降りて行く。
壇上から動かない八城を見た桜は、横にいる紬へ向き直る。
「八城さんはどうしたんですか?」
「多分……新規のルートを引いた」
「新規のルート?」
「今回の任務は新たなクイーンが誕生しているかと他の番街区がちゃんと残っているかを確認することが私たちの役目」
「でもそれで、何でそれで新規ルートが駄目なんですか?」
「私たちがよく使う通常のルートは、「奴ら」と戦闘にもなるかもしれないけど、比較的安全で、道中の道も確保されている。でも新規ルートはそれがない。新規ルートを行く場合は、新たなクイーンを確認する事も、そのルート探索内に組み込まれている場合が多い」
「つまりどういうことでしょうか?」
「つまり、フェイズ3〜4の奴らとばったり出くわす。なんてこともある…最悪クイーンと鉢合わせになることも……ある」
「……そんな事今までにあるんですか?」
「何度か……」
紬の尻窄みになっていく声がより悲壮感を掻き立てる。
八城のがっくりと項垂れる後ろ姿に、誰もかける言葉がみつからないままその日の候補ルートが決定。
通称「ババ抜き」は八番隊が見事ババを引いて終ったのだった。
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