求楽の城下

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そしてこれが後の四年後。 一番と八番、 東京中央街区での二代トップとなる二人の始まりである。 そして月日が流れ、アレから四度目の夏。 微睡みの中で小さなバイブレーターと音を控えた微かなアラームの音が鳴り響いた。 寝返りをうつ度に軋むベッドが何とも心地よい二度寝の誘惑をもたらしてくる。 八城は僅かに瞼を開けてアラームを止めると再び布団に入り直し瞼を閉じる。 「最低、にわかに信じられない……」 もうこの四年間で聞き飽きた声がするがそんなことは、気にしない。 「八城君起きて、また柏木に怒られる……」 「……知るか、今日はあの女の夢を見て完全に寝覚めが悪い。もう一度寝ない事には何処に行くにも気力が湧かないんだよ」 「また、私も怒られる」 「今日は隊長の体調が悪いって言っといてくれない?」 「嘘はつけない」 口煩い同居人の言葉に八城はしかたなくベッドから状態を起こす。 寝ぼけ眼で周囲を確認して壁に掛っている時計を見ると、俄に信じ難い時刻を指し示している。 「……ん?あれ?今日、何の日だっけ?」 「隊長招集会議」 「マジ?」 「マジ」 八城はすぐさま支度を整え、教会を出た。 「やばい……やばい!やばい!」 「だから言った」 走りながら付いてくる同居人は四年前この中央街区が設立されるまでに拾った子供の一人だ。 名前は白百合紬。 身長は低く、少したれ目でその印象を眠たげに見せる。寝癖の様な癖毛が特徴的だ。 奇特な事にこいつは一華ではなく八城の隊に配属希望を出したらしい。 「お前がもう少し早く起こしてくれてれば!」 「八城君は年々精神年齢が下がってる」 昔はこんなんじゃなかった。もう少し可愛げがあったし何より年上を敬っていた気がする。 まあ気がするだけだ。そうして会議室に着いたのは丁度集合時間から一分が過ぎた頃。 八城はバレてしまわないように匍匐前進で、なんとか自分の席まで辿り着き。椅子を引いた所で…… 「おや八番、朝から訓練かい?」 お呼びが掛かかった 「………」 「呼んでいるんだよ?八番、答えてくれるかい?」 呼び止めたのは議長席に座る柏木という、偉そうなおっさんだ。 「はい……」 「なぜ遅れたのか理由を聞かせてくれないかな?」 全ての、円卓に座る隊長の視線がこちらに向く。 「え〜と……その……」 八城は寝起きの頭をフル稼働して、どうにか言い訳を絞り出そうとしているが、意思に反して冷や汗だけが絞り出て来る。 そんな八城の様子を見かね、紬が一歩円卓の前に歩み出た。 「八城君は、今朝四度寝から目覚め今ここ居る」 「いや二度寝だけじゃん?」 「いいえ四度寝。間違いない」 周りの隊長が、ざわざわとざわつき。柏木議長は大きくため息を一つ。 「今この場所で一桁……シングルNO.が持つ意味を、八番はどれだけ理解しているんだい?」 「No.って何か意味があるんですかね?」 八城が聞いたその言葉にまた会場がざわついた。 柏木は一つため息つき、苛立ちを露にコツコツと机を指で叩き始める。 「八城、今この中央にシングルNo.が一体何人が残っていると思う。」 「一・三・八・九の四人」 議長の問いに対して、八城の代わりに紬が答える。 シングルNo.とはこの中央が出来てから付けられたNo.であり、その数字が若ければ若い程中央創設から居る人間という事になる。 そして八城の持つNo.は八、つまり中央では、かなり早くこの遠征隊に入った人間である。 「では自ずと分かるだろう?シングルNo.とは今まで中央を守りその周辺番街区の統治を任されているルールでありその成り立ちの一部だ。そして、シングルNo.は特別街区への出入りが許された精鋭のみが所属する。その八番である君が、隊長招集会議によもや四度寝では周りに示しがつかないだろう?」 「そうですかね……」 「まったく八城分かっているのかい……」 「大変申し訳ない。八城君には私からきつく言っておく。この場は許して欲しい」 紬が九十度のお辞儀をして、なんとか場を納めようとするが、それで収まらないのが東京中央という場所だ。 「はは!駄目ですよ、議長。彼に何を言っても。彼は一華の弟子というだけでシングルを譲り受けたようなものです。そんな彼に規律や礼儀など求める方がいささか酷というものです」 そう発言したのは前プレートに三十一と書かれた隊長の男だが、その発言に食って掛かる女が一人。 「控えなさい。彼は決して彼女の名前だけでその番号を持っている訳ではない。彼の功績と実力はシングルを持つに相応しいものだ」 と八城を擁護したのはNo.十七の女だった。 だが、No.三十一はそれも気に食わないと言いたげに、反論してきた十七番の女を睨みつけている。 睨み合う二人を見て柏木は疲れたと言わんばかりに咳払いを一つして、全員の視線を集めた。 「諸君!そこまでだ。今回集まったのは遠征隊各隊における人員補充並びに、番外区のクイーンの位置確認。そして四桁の番外区までの物資補給の伝達を主に行ってもらう」 四桁の番外区までという今回の任務は相当な時間が掛かる。 というのも四桁の番外区とは中央を起点に、中央が管轄する中で最も遠い番外区ということになる。 「今回君達隊長各員には、現在隊長不在の一番と九番以外の全隊員が、この任務に当たってもらうことになる」 この会議において席の空白は二席。シングルNo.の九番と一番だ。 「なお三番と八番、十一番並びに十七番には、別途新規マップ探査作業と住人の状況によっては、避難の手助けを行ってもらう予定だ」 「はぁ?」 新規マップという単語に八城は思わず間抜けな声が出てしまったが、十七番は毅然とした態度で冷静に聞き返す。 「それはクイーン位置確認と住人の避難の両方行うということですか?」 「そうなるだろう……上位四つの精鋭隊には、それぞれ新人隊員を一名ずつ送る予定だよ」 「いやいや、新人って……お守りしながら遠征なんて無理だ!それに四桁の番外区は別の中央が担当してる筈だろ?」 そう言った八城の発言に被せる様に柏木は重い口を開いた 「その担当している西武の中央が、先日クイーンの襲撃を受けた」 その言葉に今度は会議室全体が緊張に包まれる。 「向こうの中央は落とされてはいないが、住人の半数以上が未確認になっている。つまり新たなクイーンが確認されてもおかしくないという事だ。そしてここから出向ける限界地点である四桁の番外区までは、此方の東京中央でなんとかしなければ……今度こそ新たなクイーンが生まれるかもしれない。君たち上位四班に向かってもらう未確認ルートにおいては、最もクイーンの移動が懸念されているクイーンの密集エリアでもある。だからこちらのルートに従って四桁の番外区まで向かってもらうことになる。非常に危険ではある事は否定できない。だがやるしかない。出発は三日後だ。全隊奮闘を期待するよ」 柏木は一方的にそう言い残し、奥の扉に消えて行った。 これが今の現実であり、日常の風景になっている。
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