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② 2005年
ちゃるの通う大学までは、
バスを2つ乗り継いで行った。
都内だが、少し郊外にあるその大学は
緑に囲まれた広大なキャンパスが広がっていた。
「気持ちいいなぁ…」
バスを降りたユノはうーんと伸びをしてから
ちゃるの方を見て微笑んだ。
「ちゃる、今日勉強は?」
「勉強?あ、授業のことね。
一般教養だから、別に出なくても平気」
「何時から?」
「何時って、3限だから午後からだけど?」
「ご飯、食べたら、僕も出てみたい!!
…ダメかな?」
「大丈夫だけど、つまんないよ?その授業…」
「いいよ!ちゃると一緒に出てみたいんだ」
「わかった。じゃあ、先にご飯、食べよう」
「うん、お腹すいたぁ~」
2人は大学の中央部分にある学生食堂へ向かった。
「ユノは何が食べたい?」
「そうだなあ…ラーメン!」
「ラーメン?朝から?」
「うん。日本のラーメン、美味しいもん。
みんな大好きだよ」
「じゃあさ、ここじゃなくて、裏食へ行こう」
「…ウラショク??」
「あ、この建物の裏にある食堂のこと(笑)」
「オッケ~!ウラショク~♪ウラショク~♪」
「ユノ、それ何の歌?」
「ウラショクうた〜♪」
子供みたい、ユノ…(笑)
学生食堂の裏手に小さな食堂が
もうひとつあって、
そこは麺類を中心に出していた。
学生たちの間では「裏食」と呼ばれている。
2人はそこで朝ごはんを食べることにした。
ユノは五目ラーメン、
ちゃるはきつねうどんを頼んだ。
「美味しいね~!ちゃる」
「良かった〜!今日は私がごちそうしてあげる」
「ゴチソウ?」
「あ、お金を私が払うってこと」
「ちゃる、ありがと!次は僕がゴチソウするね」
「うん。楽しみにしてる」
どうしてユノといると
こんなに暖かい気持ちになれるんだろう…。
この人の笑顔を見て、
ずーっと一緒にいられたらいいのに…。
「ちゃる?どうしたの?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
そう?とにっこりと笑ったユノを
本当に好きだとちゃるは思った。
本当はサボるはずだった午後の東洋史の授業を
ちゃるはユノと一緒に後ろの方の席で受けた。
特に出欠も取らない、
一方的に教授が講義を続けるだけの
つまらない授業を
ユノは目を輝かせて聴いていた。
「僕、歌手になる前は法律の勉強をしてたんだ」
「そうなんだ・・」
「ソウルでも大学に入ったけど、
あまり行けてないから、寂しい」
「ユノ、勉強好きなの?」
「うん。色々知るのは楽しいから」
いつも前を向いてるユノは
本当にステキだ。
帰り道、バスを降りて2人は並んで歩いていた。
辺りはすっかり夕方になっていた。
「楽しかった~!ありがと、ちゃる」
「私も…。ユノといると楽しい」
「僕もだよ」
ちゃるがふと見上げた先に
ユノのきれいな瞳が見えた。
澄んでいてまっすぐな瞳…。
立ち止まったユノはちゃるの両肩に手を置いた。
「ユノ…?」
ユノの瞳がゆっくりとちゃるの方へ降りてきた。
まるでスローモーションのように、
ユノの唇がふんわりとちゃるの唇に触れた。
そのままちゃるはユノの胸に
ゆっくりとくるまれた。
「ちゃる…サランヘ」
「…サランヘ?」
「愛してますの意味だよ」
このまま時が止まってくれたら…。
本当にそう思った。
今思えば、
…やがて来ることになる
悲しい別れの時が静かに忍び寄ってきているのを
どこかでわかっていたのかもしれない…。
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