① 2005年

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① 2005年

「ユノ?…何をお祈りしてたの?」 教会の聖堂を出たところで、 ちゃるはユノに声をかけた。 「あ、ちゃる…。おはよう」 ユノはにっこりと微笑むと 「妹のこと。あとは両親のこととか…。 最近会えないから」 「そっか…なかなかおうちには帰れないもんね」 「うん…。」 2人は並んで歩き出した。 ちゃるがバイトしているコンビニに ユノが買物にきたのは 3ヶ月くらい前のことだ。 カウンターにいたちゃるに 「あの…これ、買います!!」 と、たどたどしい日本語で 話しかけてきたのがユノだった。 そこでちゃるはユノが日本人じゃないことに 初めて気がついた。 コンビニって、だまって差し出すだけで 買い物出来るのに…。 日本語を一生懸命話そうとするユノが なんだかいじらしくて可愛かった。 それから、 ユノが買物にやってくると、 ちゃるはひと言、ふた言、 声をかけるようになった。 「あの時はちゃるが話しかけてくれて、 ホントに嬉しかったんだ」 後からユノ、そう言ってたっけ…。 2人はだんだん仲良くなり、 「ユノ」「ちゃる」と呼び合うようになった。 クリスチャンであることも 2人の共通点だった。 ちゃるがよく行く近くの教会に ユノを誘ったことから、 こうやって時々「教会デート」を 楽しむようになったのだ。 ユノは韓国の歌手で、 日本でデビューが決まり、 仲間4人とマネージャーと共に 共同生活をしているらしい。 えっと…なんて名前だっけ? まだテレビとかで見たことはないんだけど…。 聞けば、歳もちゃるとほぼ同年代だった。 「僕も大学、行ってるんです。  今はお休みしてるけど…」 「そうなんだ。大変だね、ユノ…」 韓国ではかなり人気のアイドル歌手みたい。 だけど、話すととても朗らかで明るくて 気取りがないユノ。 それに、なんだか気持ちが すごく落ち着くのはなんでだろう…。 子供みたいに笑うのに、 どこか1本筋が通っていて、 家族思いで、 優しくて…。 韓国の男性ってみんなこんな感じなのかな…? こうやって並んで歩くと、 ユノは本当に背が高い。 あたし、ユノの肩までもないや、身長…。 背だけじゃない。 ユノの端正な顔立ちは目をひくのか、 すれ違いざまに振り返る女性たちも多かった。 「ユノって、やっぱり芸能人なんだね~」 「ゲイノウジン…?ちゃる、意味は何?」 「あ、芸能人は歌を歌ったり、  映画に出る人たちのことだよ」 「ああ…。でも、日本では僕のこと  みんな知らないよ」 「大丈夫。これからみんなに知られるように なるよ、きっと!」 「そうだといいけど…」 でも、そうなったら、 こうやってユノと一緒に歩いたり できなくなるんだよね…。 ホントはあまりそうなって欲しくないな…。 あたし…ユノが好きだもん。 「あ、ちゃる。僕たち今度テレビに 出ることになったんだ」 「すごいじゃない!!なんて番組??」 ユノが口にした番組名は聞いたことがなかった。 どうも関西方面の深夜のローカル番組らしい。 「でも…テレビ番組は初めてだから、  ちょっと嬉しいんだ」 「そうだよね。こっちじゃ見れないけど、  頑張ってね、ユノ」 「ありがと、ちゃる」 「あ、ユノ。朝ごはんは食べた?」 「ううん、まだ。ちゃるは?」 「あたしも…。そうだ!  ユノ、あたしの大学で食べない?」 「大学??行ってみたい!!」 ユノは目を輝かせた。 「学食、けっこう美味しいんだよ~」 「ガクショク?」 「ああ、大学の中の食堂って意味だよ」 「ガクショク、食べよう~」 ユノの学食の発音、なんかかわいい~ そこで2人はバスでちゃるの通う 大学へ行くことにした。
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