序章 スカイモービル日和

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序章 スカイモービル日和

 よく晴れた穏やかな朝、広くて青い太平洋を走るスカイモービル(浮遊型の立ち乗りスクーター)が1台。白い飛沫(しぶき)をあげて真っ直ぐ進む。  操縦するのは人型ロボット。近年話題のリアルな質感……ではなく、木彫りの人形に近い姿をしている。左手首には黄色いゴムバンドがひとつ。肩にエコバッグをかけており、風でなびくバッグの胴部分に、ハタハタと背中を叩かれている。ロボットは気にする様子もなく、鼻歌を風に乗せ、心に花を咲かせていた。 「博士、驚くだろうなぁ」  目指すは日本列島、静岡県。  ロボットを作った博士がハワイの工場を引退し、昨年から熱海(あたみ)で暮らしているのだ。 「喜んでくれるかなぁ?」  ロボットはハンドルに腕と(あご)を乗せて、優しく青い空想の世界に浸っていた。幸せそうに口角を上げ、目を細めている。 「博士が喜んでくれたら、僕の心に飴玉が落ちちゃうなぁ」  手で頬を包み「きゃー」と足をバタバタさせた。  スカイモービルがグリングリン揺れ、慌ててバランスをとる。 「っとと。ふぅ〜危ない、危ない。――あ!」  水平線に島が現れた。  ロボットは座標を確認して大きく(うなず)く。ハンドルを握り直すと、島を目でロックオンしてスピードを上げた。 「いざ、熱海へ! ゴー!」
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