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「僕はこういうの全員コンプリートしないと気が済まない性分なので少し出費がかさむのだけがネックだが」
おっと不安になる振りが入ってしまった。
「ちなみにどのくらい使ってるんスか」
「まあ月十万は滅多にいかないな」
いや全然少なくないし。でもまあお給料の範疇でやってるならアタシが口出しするようなことでは…そう思っていたら眉根を寄せた“憤怒”課長が口を開いた。
「なんに使ってンだオメェは。もう給料日前に金貸さねぇからな」
課長にお金借りてたのマジで。
「ではわたくしも」
ちょ、主任にもお金借りてたの?
「わ、私も…次は、ちょっと…」
“嫉妬”ちゃんにも借りてたのおおおおっ!?
アカン。これはアカン。なんとか辞めさせないとアタシや“暴食”ちゃんにも借り始めるよこの人。
「“強欲”先輩、ちょっとガチャは控えたほうがいいっスよ。あれは人類の考えたおおよそ悪い文明の頂点に君臨する集金システムっスから」
「みんな冷たいな。僕はボーナスのたびにきちんと返してるじゃないか」
「ボーナス頼りの自転車操業で借りたお金でガチャ回すとかびっくりするくらい最悪っスよ先輩」
“強欲”先輩は「むっ…」と一言唸って黙ってしまった。気を悪くしてしまったのは申し訳ないけれども完全にギャンブル依存症なのでなんとかこの機会に更生して欲しい。ガチャとパチンコだけは本当にダメだから。
「“色情”はなんかあんのかそういうの」
“憤怒”課長が“色情”係長に話を振った。
「ええ、ペットのようなものを」
係長が初めて鏡から視線を上げて課長に頷く。
「ようなもの?」
「ダイスケと言うんですけれども」
「…そっか」
誰もそれ以上の追及をしなかった。
そして誰もが同じ言葉を脳裏に思い浮かべていた。
【あ、ヒモだコレ】
気まずい静寂が広がる中“色情”係長だけが気にした様子もなく鏡に視線を戻す。
「あー、そうですわ。“憤怒”課長はそういうのとはご縁がなさそうですわね。メンタル鉄で出来てらっしゃいそうですし」
“傲慢”主任が話題を切り出してくれたけどその課長を煽っていくスタイルはなんなの。肝がキンッキンに冷えたんですが。まあ幸い課長は気にした様子もなく、答えは別の意味でキンッキンに冷えていた。
「冷凍庫にダッツが入ってるくらいだなー。腐るモンでもねぇし期間限定のやつはとりあえず買って放り込んどく」
スーパーでもコンビニでも買える高級感のあるカップアイス、レーベンダッツ。ブランドイメージを堅持しつつ季節限定商品の開発にも力を入れていて常に新鮮な話題を提供してくる。働く女子の御用達だ。
「意外と女子だっていうか課長が一番めんどくさくない普通の女子っぽいの凄くない?」
「オイコラ“怠惰”、オメェ死にてぇのか」
気付けば六人全員がアタシを見ていた。
自分の発した言葉の意味を改めてじっくりと吟味する。
あー、アタシ今全員を痛烈に侮辱してしまってない?しまったよね?
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