地獄OL“怠惰”ちゃん

1/7
前へ
/7ページ
次へ
「はぁ~もうつかれたッスわぁ」  デスクに突っ伏して目を閉じるとひんやり冷たい感触が頬に気持ちいい。 「おい“怠惰”まだ定時にもなってねえぞ。デスクで寝んのは昼休みだけにしろ」  デスクに足を乗せて椅子を傾け退屈そうにしている“憤怒”課長が低い声で叱責する(ドスを利かせて凄む)がどこ吹く風だ。  どこ吹く風のアタシが“怠惰”だ。  ぶっちゃけ実力行使に及ばれ(マジで殴られ)なければセーフだと思っているし実際のところ及ば(殴ら)れたこともある。 「寝てたいっス課長~」 「ア゛ア゛!?」  おっと。 「じゃなかった寝てないっス課長~、これはですねえ、デスクで涼をとってるんスよぉ、ほらほら目が開いてます、ぱっちり」 「半分閉じてんじゃねえかボケ」  デスクに頬ずりしながら目をぱちぱちと瞬かせ(起きてるアピールす)るけど不評だったようだ。  そうでなくても日常的に(いつも)低く威圧的な(軽くドスの利いた)声をイラだたせてデスクに乗せたままのヒールをガンガン打ち付ける。 「課長汚いので止めてください。あとあんまり大声や物音を立てるとまた隣室からクレームがきますので止めてください」  お誕生日席で怒っている“憤怒”課長の右前の席に座る美人、“色情”係長がまったく関心なさそうに、自分の上司(“憤怒”課長)にも向かいに座る部下(アタシ)にも一瞥もくれることなく静かに言った。  では彼女がなにを見ているかと言えば、デスクに置かれた化粧鏡だ。  高精度拡大鏡LEDライト自動回転機能つき(家に置いてるひとも少ないでしょって感じ)のガチなやつを彼女はデスクに置いている。  ちなみに家にあるやつはさらに本格的(もっと凄い)らしい。  いや引くわ。 「ハァ?だったらまず係長のオメェが注意しろってんだよナメてんのか。向かいの席だろうが鏡ばっか見てんじゃねえぞ」  次いで“憤怒”課長はその向かい、彼女の左手に座る“傲慢”主任にその熱視線を向け(ガンを飛ばし)た。 「おい“傲慢”オメェもだぞ。他人事(ひとごと)みてえなツラしやがって隣の席だろうが目ん玉ついてんのか」  しかし当の“傲慢”主任は顔色ひとつ変えず(しれっとしたまま)スマホをぽちぽちやっている。 「まことに残念ですけれど、わたくしのお目ん玉は真横が見えるところには付いておりませんわね」  “傲慢”主任のあまりの返事に“憤怒”課長が大きな溜息を吐いた。 「どんな減らず口だよこっちがビビるわ」  “憤怒”も一瞬萎えるほどの上下関係(T P O)を弁えない“傲慢”さ。 「ビビったら負けでしてよ課長」  さらに追い打ちをかける“傲慢”主任マジ半端ない。  しかし“色情”と“傲慢”が“怠惰”(彼女らがアタシ)のように仕事嫌い、上司嫌い(まるっとやる気がない)かというと実はそうでもなかったりする。むしろこう見えて彼女らは恐ろしく仕事熱心(軽くワーカーホリック)だ。  ただ、与えられた仕事は完璧以上にこなすが後任育成や風紀の類い(自分以外のこと)に全然興味がない。  絶望的に管理職に向いてない。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加