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「はぁ~もうつかれたッスわぁ」
デスクに突っ伏して目を閉じるとひんやり冷たい感触が頬に気持ちいい。
「おい“怠惰”まだ定時にもなってねえぞ。デスクで寝んのは昼休みだけにしろ」
デスクに足を乗せて椅子を傾け退屈そうにしている“憤怒”課長が低い声で叱責するがどこ吹く風だ。
どこ吹く風のアタシが“怠惰”だ。
ぶっちゃけ実力行使に及ばれなければセーフだと思っているし実際のところ及ばれたこともある。
「寝てたいっス課長~」
「ア゛ア゛!?」
おっと。
「じゃなかった寝てないっス課長~、これはですねえ、デスクで涼をとってるんスよぉ、ほらほら目が開いてます、ぱっちり」
「半分閉じてんじゃねえかボケ」
デスクに頬ずりしながら目をぱちぱちと瞬かせるけど不評だったようだ。
そうでなくても日常的に低く威圧的な声をイラだたせてデスクに乗せたままのヒールをガンガン打ち付ける。
「課長汚いので止めてください。あとあんまり大声や物音を立てるとまた隣室からクレームがきますので止めてください」
お誕生日席で怒っている“憤怒”課長の右前の席に座る美人、“色情”係長がまったく関心なさそうに、自分の上司にも向かいに座る部下にも一瞥もくれることなく静かに言った。
では彼女がなにを見ているかと言えば、デスクに置かれた化粧鏡だ。
高精度拡大鏡LEDライト自動回転機能つきのガチなやつを彼女はデスクに置いている。
ちなみに家にあるやつはさらに本格的らしい。
いや引くわ。
「ハァ?だったらまず係長のオメェが注意しろってんだよナメてんのか。向かいの席だろうが鏡ばっか見てんじゃねえぞ」
次いで“憤怒”課長はその向かい、彼女の左手に座る“傲慢”主任にその熱視線を向けた。
「おい“傲慢”オメェもだぞ。他人事みてえなツラしやがって隣の席だろうが目ん玉ついてんのか」
しかし当の“傲慢”主任は顔色ひとつ変えずスマホをぽちぽちやっている。
「まことに残念ですけれど、わたくしのお目ん玉は真横が見えるところには付いておりませんわね」
“傲慢”主任のあまりの返事に“憤怒”課長が大きな溜息を吐いた。
「どんな減らず口だよこっちがビビるわ」
“憤怒”も一瞬萎えるほどの上下関係を弁えない“傲慢”さ。
「ビビったら負けでしてよ課長」
さらに追い打ちをかける“傲慢”主任マジ半端ない。
しかし“色情”と“傲慢”が“怠惰”のように仕事嫌い、上司嫌いかというと実はそうでもなかったりする。むしろこう見えて彼女らは恐ろしく仕事熱心だ。
ただ、与えられた仕事は完璧以上にこなすが後任育成や風紀の類いに全然興味がない。
絶望的に管理職に向いてない。
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