王道どころじゃない!

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「圭志、俺、仕事手伝うよ」  ああなんて優しくいやらしい声なんでしょう。やっぱり守は将来イケボになる素質がある。  耳元で囁いてほしい。できれば恥ずかしい台詞を言われ責められたい。そのまま耳でも舐められたら最高だ。耳の裏に痕をつけてほしい。見えないところに所有印。密やかに交わされる情交の痕なんて最高にいやらしいじゃないか。  どうにかならないだろうか。もっと守と接点を持つ方法は。と、思って、これだ! と閃いた。 ──たしか生徒会補佐のポジションが空いていたはずだ。 「守、」 「おい守、そんなことより、そろそろ俺と寝る気になったか」  横取りするな俺様会長!  忌々しい。本当に忌々しい。  会長は本気だ。本気で守を狙っている。ちらりと寄越された目が私をライバル認定しているのがわかる。その鋭さにすこしぞくぞくしたがそれどころじゃない。  私は貧弱ネコ。相手は百戦錬磨のおタチ様。しかし戦うと決めたのだ。そして戦うからには勝つ。私は案外負けず嫌いらしい。守に会わなければ気づかなかっただろう自分を見つけて、やはり守は運命なのだと確信する。 「まも、」 「まもちゃん、カイチョーなんかとヤっちゃったら妊娠しちゃうよー。俺ならそこんとこ上手くやるし、俺にしときなよ」  邪魔をするなチャラ男会計!  ああ忌々しい。甘ったるい声で守に話しかけるな。妊娠してしまうでしょう! いやでも妊娠っていいな。そんなプレイをしてみたい。孕ませ、みたいな。  いやいや今はそんなことを考えている場合じゃない。守の、ひいては私の危機なのだ。 「ま、」 「守、だめ。ふたり、意地悪。俺、優しい」  ええい黙れわんこ書記め!  ああ忌々しい。その辿々しい口調で甘えるな。可愛いだろう! でも優しくするっていいな。優しくするって言いながらねちっこいとさらにいい。  ていうかみんな私の相手をしてくれ。私なら初めてでもないし妊娠プレイも好きだしねちっこいのも好みだしでぴったりじゃないか。  なんだか守に嫉妬してきた。これはいけない。私には守にタチ教育を施すという使命があるのだから、嫉妬してる暇はない。 「そのひとたちは危険です。守くんには私が教えてさしあげます」  一斉に、えっ、という顔が向けられた。ので、私は、えっ、という顔をする。なに。なんだ。なんでそんな顔で見られるんだ。  まさか。まさか私の淫乱さがバレてしまったのだろうか。私だけ明らかにネコ側の気持ちでいるわけだからタチのみんなにその匂いを察知されてしまったのだろうか。  私が緩いと知られるのは面倒だがいい機会なのかもしれない。  生徒会役員とは過ごす時間も長いし、もともと隠し通せるとは思っていなかった。 「私はいろいろ勉強してますし、守くんは私が教育します」  私は身体を使って勉強してきたので、実践にさえ持ち込めれば守をタチにする自信はある。  そりゃあこのおタチ様どもの前では貧弱ネコだろうけれど、それでもそんじょそこらの子猫よりはいろいろましなはずだ。 「そりゃあお前、テストは満点だろうが……」 「ケイシーちゃん、保健体育の教科書じゃ教えられないものもあるんだよ」 「圭志、無理、だめ」  でた。私の儚げな容姿のせいで起こる擦れ違いだ。 「分かってます。ですから実践を」 「お前だと手ェ繋いで寝るのがオチだ」 「いえ、だから、私には豊富な知識がですね」 「テストで満点とるのとベッドで満点とるのとは違うよー」 「当たり前です。だからこそ私の勉強の成果が」 「無理、だめ」  ああ! 忌々しいッ! もう私はビッチですと叫んでやろうか! 「ですから私はっ」 「お前ら恥ずかしくねえのかよ!」 「え」 「セ、セ、セッ、クス、とか、は、恥ずかしいだろ!」  可愛い。やっぱりハジメテなんだ。誰もセックスなんて直接的なことを言っていないのに。卑猥な言葉だけで真っ赤になってしまう年下の筆下ろしもたまらない。  によによしそうな顔を必死で固めていると理愛と喜愛が入室して来て、賢治が淹れたお茶でひと息つく。  賢治の淹れる紅茶は本当に美味しい。自分で淹れるとどうしても香りが飛んでしまうので素直に尊敬してしまう。  賢治は手先が器用だ。料理も得意だし裁縫も嗜むという。いい。繊細な手つきで触られたい。  その後ぼんやりと妄想しながら風紀委員室で決めたとおり早めの夕食をとりゆっくりと湯船に浸かり、ベッドへ入って寂しく枕を抱きしめたときに気づく。  しまった! カミングアウトのチャンスを逃してしまった!
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