王道どころじゃない!

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 はあー、顔面が良い。顔が性的。はだけたシャツのおかげで見えた腹筋なんて最高にいやらしかった。  度々彼が致してる現場に遭遇するのだが、そのたびに表情を取り繕うのに苦労する。だってすごく色っぽいので凝視したくなってしまうのだ。  私の上司である生徒会長、山代(やましろ)稜明(りょうめい)は世の中の男の大半が、生まれ変わったらあの顔になりたい、と思うだろうほどに整った顔立ちをしている。  男が憧れる男。柔和さのない、男臭い、尖った美貌だ。  一度抱かれてみたい。彼のセックスは激しそうだし、もしかしたら痛いかもしれない。でもそれくらいがいい。  しかしさりげなくかけたお誘いは断られてしまった。  欲求不満なら私にもチャンスがあるんじゃないかと思ったのだが。もしかしたら会長は、私のふしだらさに気づいているのかもしれない。明らかに処女を失っている私に、処女の相手はしていられない、と嫌味のように言っていたし、その可能性は高かった。  彼が選ぶのは清楚な外見の子が多い。逆に少しでも遊び慣れてそうなビッチは毛嫌いしているように思う。  なので私のこのビッチさを、彼は見抜いているのかもしれない。  必死で隠しているのだけれど、滲み出るビッチ臭はそう簡単には隠せないのだろう。残念だ。  ただ、会長は致したあと、相手をすぐさま追い出そうとしていた。これはいただけない。  男女でもなんでも、受け入れる側は負担が大きい。とくに男性同士の性交渉はそれが顕著なので、より思いやりが必要だ。実際私は致した後はへろへろになってしまう。  会長は使い捨てのように相手を取っ替え引っ替えしているので、そんな気遣いの心を忘れてしまったのかもしれない。だから私が代わりにフォローしようと思ったのだけれど、なにやら苛立たせてしまったらしい。  顔は本当に美しいのだ。面喰いな私としては一度だけでも夜を共にしてみたい。どうにかならないだろうか。  いいやでも私には守がいる。彼は私のふしだらな身体に気づき、それでも受け入れてくれた稀有な存在だ。彼が立派なタチに成長してくれることを静かに祈る。 「おい、その転入生とやらはどこだよ」  騒がしい食堂のなか、気怠げに立つ会長が面倒臭そうに私を見下ろす。 「ケイシーちゃんが気に入るなんて珍しーね。そんなに可愛い子なのー?」  生徒会会計、櫻井(さくらい)真人(まひと)が面白そうに周囲を見渡す。顔を動かすたびに金色の髪が揺れて、光を弾いた。 「ね、むい」  生徒会書記、片平(かたひら)賢治(けんじ)が目を擦りながら欠伸をする。大きく開いた口から覗く歯、八重歯が尖っているのが見えて、噛まれたら痛気持ちいいだろうな、と思った。 「ねえねえ、どんな子なの? ケイシーが気に入るなんて相当だよね?」 「ねえねえ、可愛い子? かっこいい子? それとも綺麗な子? ケイシーとどういう関係なの?」  生徒会庶務、木村(きむら)理愛(りあ)と、その弟である喜愛(きあ)。彼らは双子だ。私の袖を掴んで瞳をきらきらさせている姿が可愛らしい。 「守くんは私の、」 「圭志!」  守は私の未来のタチ要員です。と答えそうになったところを救われた。  見れば元気いっぱいな声の持ち主、守がぶんぶんと手を振っている。 「守くん、こんにちは。登校初日、どうでしたか?」 「この見た目のせいでちょっと嫌な思いもしたけど、でもちゃんと俺を見てくれる友達ができたぜ!」  四人がけのソファ席に座る守の正面にはふたりの生徒がいる。ネクタイの色が緑なので一年生、そして守のいう友達だろう。  ひとりは爽やかな見た目のイケメン。この子はタチだ。  もうひとりは可愛らしい見た目の子。この子は両方いける。  いけない。無意識に下定めしてしまう。本当に欲求不満なんだな、これじゃあ会長を笑えない。  内心の下心を隠して、私は努めて友好的に見える笑顔を作った。  すると守の唯一はっきり見える唇がへの字に曲がる。 「圭志、無理して笑うなって言っただろ」  ああ神よ。感謝いたします。  本当に守は私の本心を見抜くのがうまい。そして私のどうしようもない本性を丸ごと受け止めてくれる。  そして相変わらず唇が性的だ。  守の許可を得たので遠慮なく眺める。頬が勝手に緩み、舐めるような視線を向けてしまったけれど、守は満足そうに受け止めてくれた。  それにしてもうるさいな。きゃーきゃーわーわーと騒がしい周囲に驚いて頬が引き締まった。急に大きな声をあげないでほしい。びっくりするじゃないか。 「うそ」 「水原様が」 「あの陰キャ、なにしたの」 「それに呼び捨てしてた」 「なんなのふざけてんの死ぬの?」 「水原様のあんな笑顔見たことない」    この学園で生徒会という組織は絶大な人気を誇っている。  人気投票で決まる生徒会役員は顔、家柄、成績すべてに秀でたものが選ばれ、その頂点が生徒会長、間に風紀委員会の長が挟まって、生徒会副会長、会計、書記、庶務、と続く。  つまりこれでも私はなかなかの人気者なのだ。  ちなみにタチネコランキングというものが存在し、私はネコランキング一位をいただいている。なのに誰も相手にしてくれないのは何故だろう。  ネコランキング一位ということはこの学園で一番抱きたいと思われてるってことですよね? なぜ誰も抱きにこない? そりゃあ面喰いですからえり好みはしますけど、だからって一年以上もお預けなんてあまりにもあんまりなのでは?  なんて思っていたら。 「きゃあああ!」 「ぎゃああああ!」 「くそオタク! 万死に値する!」 「離れろオタク! 山代様が汚れる!」  これは、なんだろうか。  目の前で行われているこれは、現実なのだろうか。  守の唇と、会長の唇がくっついている。それだけじゃなくなんか舌が絡まっている。  周囲の絶叫を聞きながら、私はあまりの出来事に軽くトリップしていた。  会長が守にキスをしている。なんてことだ。私より先に味見するなんて。私が先に見つけたんですよ!  ていうか長いな。どんだけ濃厚なんだ。羨ましい。 「ッなにすんだよ!」  奪われていた唇を取り戻した守が会長に殴りかかる。  繰り出される拳のあまりの速さにわあ、と声が出た。でも会長は余裕を持って拳を避け、唾液に濡れた唇を歪ませた。  その壮絶な色気に倒れる生徒が出はじめる。 「圭志が気に入ったっつーからどんなもんかと思ったが、大したことねえな」 「なんだと! いきなりき、き、きすしやがって、お前なに考えてんだよ!」 「おい、誰が口きいていいっつった?」 「何様だよお前!」 「黙れ。一生腰立たなくさせんぞ」  さすが会長。オスみが強い。  私の腰を差し上げますのでどうか一度抱いてください。
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