王道どころじゃない!

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「はいはーい、充イーツのお届けでーす」  そう言っててきぱきとテーブルをセッティングしていく風紀副委員長である中馬(なかま)(みつる)が私にむけてウィンクする。それを笑顔で受け止めて、「お気遣いありがとうございます」と改めてお礼を言う。 「いーっていーって、気にしなーいの。それよりケイシー働きすぎなんじゃない? 綺麗なおめめの下に隈ができちゃってるよー。かわいそうに、あとでホットタオル持ってきてあげるね」  遠慮する間もなくカトラリーを握らされ、料理を目の前に並べられる。食前の挨拶をする前にサラダを口元に運ばれた。 「それにしてもふたり並ぶと壮観だねー」  もぐもぐとエビとアボカドを咀嚼する。 「うちの委員長はザ・美丈夫って感じでしょ? そんでケイシーはザ・美青年だから、ふたり揃うとその映画いつ公開ですかー? ってなるわけ」  うん? よくわからない。  委員長が美丈夫なのは間違いないとして、私が美青年? たしかに私の顔は整っているけれど、委員長の隣に並べられたら確実に見劣りすると思う。  委員長はなんていうか理想的すぎてもう人間じゃないというか、二次元からやって来たというか。とにかく別格なのだ。  うちの会長も委員長と張る美形だけれど、こればっかりは好みの問題だ。和食と洋食。私は洋食が好きだというだけのこと。 「どう? うちの委員長、今ならお安くしとくよ?」  適正価格で構わないので是非とも買わせていただきたい。 「中馬、もういいだろう。下がれ」 「はいはーい、じゃあおふたりさん、ごゆっくりー」  中馬が退室すると室内は静寂に包まれた。なんとなく咀嚼を止める。 「中馬も言っていたが、生徒会の仕事はそんなに大変なのか」  ごくん、と嚥下する。声が色っぽすぎて正直食事どころじゃない。 「いえ、私の要領が悪いだけです」  委員長の柳眉が跳ねる。  私はそれをぼうっと見ていた。  はあ、本当に顔がいい。 「前崎守」 「彼がなにか?」 「前崎守がこの学園に来てからどれだけの問題が起きているのか、報告しているから把握しているだろう」  ああ声が最高に好み。緊張する。なんか変なことしでかさないかな。理性が飛んで急に迫ったりしないかな。自分の忍耐力が信用ならない。  料理を口に運ぶ動作がエロチックすぎて話が頭に入ってこない。うん? 守の話をしているのかな。守が転入してきてから起きた問題? もちろん把握している。 「やつの素行は目に余る」  守が生徒会役員や他人気のある生徒と親しくすることで、親衛隊の反感を買っている。  まず、親衛隊持ちの生徒は同じく親衛隊持ちの生徒以外をファーストネームで呼ばないし、呼ばせない。そうしてしまえば、その相手が特別だと示すことになる。守はそんなこと関係ないとばかりに親衛隊持ちのファーストネームを呼び捨てにし、親しくしていた。  皆が納得するのならいいのだが、守の場合は不潔な見た目のこともあり、納得には程遠い。  親衛隊が守に制裁を加え、守はそれを返り討ちにする。結果学園全体が荒れる。  守はああ見えて喧嘩が強いらしい。いいな。強いってことは筋肉があるってことだ。いつか触らせてもらえないかな。 「ことの始まりはお前だと記憶しているが」 「はい?」 「前崎守を随分気に入っているようだな」  アクアマリンの瞳が眇められ、鋭利な美貌が向けられる。  ひいぃ、男前ええぇ。あまりにも顔が好みすぎて頭がぼうっとしてきた。 「なにがそこまでお前の気をひいた?」 「守くんは、本当の私を知っても、綺麗だって笑ってくれたんです」  あーいちゃいちゃしたい。密着してご飯を食べたい。指長いなあ。色っぽいなあ。  妄想でぼんやりしてきた頭が、こちらに伸ばされる手を追いかける。 「誰に汚いと言われた」  がしっ、と手を取られびっくりする。  え? なに、なんですか、なんの話ですか。やばい。いちゃいちゃする妄想してたから自分がなにを言ったのか覚えていない。  パニックに思考が混乱する。小さなテーブルとはいえ向こう側から私の手を掴むなんて、腕が長いなあ。それよりナイフを持ってなくてよかった。このフォークも危ないな。握ったフォークを手放すと、からん、と音を立てて皿に転がった。  それにしても大きな手だ。私の手も小さくはないはずなのに、すっぽりと包まれてしまっている。貧弱な私とは違い、男らしい手だ。  あったかいなあ。もっと触ってくれないかな。手だけじゃなくて身体中触ってほしいなあ。全身撫でてくれないかなあ。  それにしても力強いな? 痛みは好きなほうだから私は大丈夫だけれど、普通なら耐えられないぞ。いやでもこの強引さもたまらない。  駄目だ。顔が火照ってきた。 「すまない。泣くほど怖かったか」  いいえ。欲情しているだけです。
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