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ぱたん。委員長室の扉が閉まると同時に、私は膝から崩れ落ちそうになった。
そりゃそうだ。腰を撫でられ、好みの声に耳元で「敏感だな」なんて囁かれれば誰でも腰砕けになるに違いない。
委員長は最後に「すまない」と謝罪してくれたけれど全然すまなくありません。
あまりの色気にぼうっとして受け答えが適当になってしまった挙句、去り際に欲情しふらついたどうしようもない私を善意で支えてくれた委員長に申し訳なく思う。
でも腰を撫でられたのは予想外のご褒美だった。
思わず甘やかな息を吐いてしまい肝が冷えたけれど、素早く表情を取り繕ったおかげか上手く誤魔化すことができたようだった。
正直誘われてるかと思った。
でも委員長は硬派な御仁だ。ビッチな私など相手にされないどころか嫌悪されてしまうだろう。勘違いして飛びつかなくてよかった。
本当に、ほんとおおおうに残念でならないけれど委員長は決して私に靡かないだろう。彼はお付き合いをしたら結婚を考えそうなほど誠実で真面目なひとだから。
私はひとりとしかセックスできないのは耐えられないので結婚は無理だ。まあそれ以前に私は男が好きで、私も男であるからそもそも無理な話なのだけれど。
でも触ってもらえた。事故なうえに委員長には少しの下心もなかったとはいえ本当にラッキーだ。
最近落ち込んでいた気分が上向きになってゆくのを感じる。
食事もご馳走になったことだし、今日だけは仕事のことを忘れゆっくり湯船に浸かってたっぷり寝よう。
生徒会室へ戻ってきたら、そこには役員が揃っていた。さらには守までいて、私の気分はさらに上向きになる。
「守くん、いらっしゃっていたんですね」
「圭志! 久しぶりだな」
顔が殆ど見えなくても満面の笑みが伝わってくるような快活な声につられ、私の頬も緩む。
しかしそれも守を囲む野郎どものせいですぐに引き締まった。
「会長、真人」
「ああ?」
「なあにー、ケイシーちゃん」
守の両隣を陣取る男ども。こいつらはタチだ。
会長は言わずもがな。生徒会会計である真人も相当な遊び人で、それもタチ役しかしないと有名だ。
やばい。このままだと本当に守が危ない。
「守くん、そんな危険な男たちには関わらないほうがいいですよ。それより私とお茶をしませんか」
守がやつらの毒牙にかかり完全なネコになる前にタチ教育をしなければ。
このまま守がネコになってしまえば私の本性を受け入れてくれる貴重なタチ要員を失ってしまう。
そんな危機感に顔が強張っているのを自覚しながら笑顔を作る。
「珍しー。ケイシーちゃん嫉妬してるのー?」
「そんなに気に入ってんのか」
ふたりして驚いた顔を向けてくるがどうでもいい。
ええ。嫉妬というより敵対心を感じていますとも。
それにおふたりとも、ネコが欲しいなら私がいますよ。それなりに顔も整っているし、いろいろと慣れているし、なかなかの好物件だと思うのですが。是非私を抱いていただきたい。
「お茶。圭志、も……飲む?」
出たなわんこ書記賢治。彼もネコたちに人気のタチだ。
わんこの皮を被った狼。狙った獲物は逃さないとばかりに守について回っているのを知っているぞ。欲求不満なら私の狼になってくれ。
危険だ。あまりにも危ない。
守。あなたの周りには理想のタチが集まりすぎている。
ここまでくると守に嫉妬心が芽生え始めてもおかしくないのに、私はただ守がネコにされないか、それだけが心配だった。
守は私が理想のタチに育て上げるのだ。なんとしてでも失いたくない。
「守くん、お茶なら私が淹れますよ。こちらで落ち着いてお話ししましょう」
「圭志……ひとり、じめ……だ、め」
お茶を配りながら注意されてしまった。
でもこれだけは言いたい。
「一番最初に守くんを見つけたのは、私ですよ」
私が先に目をつけたのだ。易々と奪われてたまるか。こっちは一年以上続く地獄のような欲求不満の日々なのだ。
「圭志、忙しいのか? 目に隈ができてる」
ああなんて優しいのだろう。守。私はしっかりとあなたを立派なタチにしてあげますからね。
私を心配した守が席を立とうとした。が、それは会長に阻まれる。
「近づくな」
唸るような声で会長が守の腕を掴んでいる。
「そうだよー。ケイシーちゃんは難しいひとだから。近づくと傷ついちゃうかも」
真人がそれに続き。
「圭志、潔癖……。怖い思い、させて、しまう、かも」
賢治が守を宥める。
必死な様子に私は歯噛みする。
こいつらは本気だ。本気で守をネコにしようとしている。
しかしそこはやっぱり私の守だ。彼は危険なタチたちを自ら振り払い立ち上がった。
「お前たち友達なんだろ! 俺を心配してくれるのは嬉しいけど、圭志はいいやつだ! そんなこと言うなよ!」
ああ神よ。私は諦めなくていいのですね。
手強いタチたちに囲まれているけれど、私は戦います。そして守を立派なタチにしてみせます。
ていうか皆さんそんなに欲求不満なら、私のお相手してくれませんかね?
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