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神社の正体
「俺だって、あの日記を信じてない訳じゃない」
夫の曇った顔を見て、妻は只、無言で俯く他無かった。
病気である体を装うほかない事は分かってはいたものの、自分の息子が通う場所の恐ろしさやそれに口出しをしてはならない事の歯がゆさがあった。
日記にはこう記されていた。
「その神社の名前は水子衆神社。亡くなった子供達を弔う事を専門にしている神社で、神主も人ではなく"提灯煌々"と言う彼岸花の化身。
子供達を無事に冥土に送る為の文字通り目印の提灯の役割をしており、そこを守っているのが蛇神と鬼神であり、基本的に蛇神は各地を転々とし、水に関する事柄を治めています。
水子衆神社はそれを必要とする人間以外には見えず、存在すら知られていない場所。神聖な場所なので問題は無いと思うが、もしもそこで彼が迷子になれば戻って来れません。
しかし、その神社の守り神である鬼神が必ず送ってくれる事を考えると、彼はその場所で子供達即ち友達と遊ぶ事で成仏への道を開いているのかも知れません。
そうなればその行為は神聖な神の領域に当たります。何れ、蛇神が何らかのコンタクトを取って来るでしょう。それまではくれぐれも彼の行動に制限をなさいません様にご留意ください」
つまり、息子は蛇神の怒りに触れ、食い殺されるかもしれない。それでも、人間である両親には成す術がないのである。
何時か行方不明になるのではないのか。
息子の行方不明は死を意味する事を分かっている両親はそれを恐れ、寂しさを埋める様に二人目の息子を溺愛してしまった。
そうする事で益々、長男との溝が深まってしまったが、最早、両親にはそれをどう埋めたら良いのか分からなかった。
自分達とは明らかにかけ離れた世界で生きる息子は誰よりも遠い存在となっていた。
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