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「店じまいしたら、ここにある本はどうなるの?」
侑哉は、店内を歩きながら棚の本を手に取る。色褪せ具合から年期の入ったのがわかる、人文系の学術書だ。
「ご近所の同業者に引き取ってもらうのが一番かねえ」
ふうん、と言いながら、侑哉は学術書を棚に戻し、パーカーについた埃を軽くはらった。
本棚にさえぎられ照明の届く範囲はせまいが、レジに座る友義の気配はこじんまりした店内どこからでも感じられる。逆にいえば、それは客があやしい動きをしても店主にはすぐわかるということなのだ。
けほ、と侑哉が一度咳をすると、友義は苦笑した。
「はたきはかけてるんだけどさ、古い本は仕方ないんだよ。ああ、ちょうどいいのがあった……ちょっと待ってね」
そう言うと友義は、レジの背後にうずたかく積まれた箱を移動し始めた。
段ボールと行李のようなものもあるが、とりわけ侑哉の目を引いたのは、ファンタジー映画に出てきそうな渋い色をした革の箱。スーツケースより大きな箱から友義が取り出したのは、これまたゲームや漫画で見たことのある、巨大な鳥の嘴だ。
顔がすっぽり隠れるお面状の形で、目の部分には丸いレンズがはまっている。
「……おじさん、何これ」
「ペストマスク。知らない?」
「いや、名前はなんとなく聞いたことあるんだけど、なんで伯父さんがこれ持ってるの、って意味で」
おもいっきり眉間にしわを寄せている侑哉に向け、友義はペストマスクを掲げる。
「なんかね、あるんだよ。まあ模造品だけどさ。皆、研究室に本とか物が溢れるとうちに持ってくるんだよね、近いし。これは確か史学科の教授がシャレで買ったんだけど、思ったより学生の食い付きが悪いからってくれたんだ」
「アキバに持っていった方が売れたんじゃない」
「それがさ、アキバのコスプレ店から買ったらしいんだよね。あ、侑哉もアキバいくときは自転車貸すから。10分くらいで着くからいいよー」
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