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で、と友義はペストマスクを自分の顔の前に持ってきた。
「似合う?」
「……うん。似合う、かもね……」
「大学生のわりにノリが悪いなあ。まあいいや。埃よけになるだろうからあげるよ、これ」
友義はレジ脇においていたタオルでマスクを軽く拭き、侑哉に差し出した。
「え」
「古書店のバイトが咳こみながら店番してたら、印象悪いでしょう。あとね、侑哉は美弥に似て顔がいいから何つけても大丈夫、うん」
確かに、母親と同じはっきりとした二重の侑哉なら、コスプレ感満載の小物でも意外に似合うが、そもそもこれを付けたら顔は見えない。
「最近写真集を探しに来た演劇サークルの子は、中学ジャージに縦ロールのかつらをつけたままだったけど、違和感なかったよ」
入学早々キャンパス内であらゆるサークル勧誘の洗礼に遭い、学内にいながら異世界転生した気持ちを味わった侑哉は、ジャージ縦ロールがどういうものかもすぐ想像ができた。
演劇の練習をしたまま買い物に出たのは一目瞭然だが、どういう内容の演劇なのかは皆目見当がつかない。
なんにせよ、大学から徒歩5分の距離に店を構え、何十年もそんな学生たちと接している友義には、縦ロールがペストマスクに変わったところでたいした違いは無いようだった。
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