1-2 ピンクのツインテールはお好きですか

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「ラノベ……ラノベか。異世界転生して中世ヨーロッパ風の国に生まれ変わってる感じ?」 「あ。そんなの、かも」 なるほど、と再び手を動かしながら友義はうなずく。 「実際のヨーロッパの風俗とか、魔法とか、そういうの詳しく知りたいとか思わない?」 「いや別に。その小説の中の設定だし」 さらさらっと回答をした侑哉の目を、友義はじっと見る。 「なに」 「もったいないねえ」 はあ、と友義はこれ見よがしなため息をついた。そして手にもった粘土を侑哉に向ける。どうやら、人の形をしたものを作っているようだ。3、4頭身くらいで、まだ髪の毛は作られていないが、メリハリのある体つきは女体だろう。 「いいかい。本を読むってのはさ、トリップなんだ。特に小説はね、その作品の中でもう一人の自分が生きるような疑似体験ができるんだよ」 「うん」 説教かとおもいきや、うっとりした様子でしゃべりだした友義を、侑哉はあっけにとられて見た。伯父は自分の母の兄にあたるので、父とほぼ同じくらいの年だ。しかし父親がこんな女体の人形片手にトリップとか言い出したらひくよな、と侑哉は冷静に思う。 「小説に限らず、例えば歴史なら、その時代にともに生きて苦難を味わったかのような感覚に浸れる。いまでは想像もつかない出来事でも、言葉にして文字にした人がいたからこそ、今こうして知ることができるのはどんなに素晴らしいか」 侑哉は、すでに店での制服代わりにいつも着ているパーカの袖を少しまくり、友義の背後のブラインドを見た。隙間からしか外をうかがえないが、完全に開けると本が日に焼けるのだろう。 店は雑居ビルの1階にあるため通りを歩く学生のシルエットがなんとなくわかる。サラリーマンも上着を手にしていたり、みんな軽装だ。入学してまだ1か月もたっていないが、GW前の関東は汗ばむくらいの陽気になったりするので、侑哉もGパンが肌に張り付いて気持ち悪いな、と足をさすった。 「うちの店には置いてないが、もちろん漫画も良い。一見してキャラの特徴がわかり、それがさらに紙の上を縦横無尽に動くのだ。セリフを追いながらページをめくるあの感覚は、電子じゃいまいち味わえないんだよなあ」 話しながらも、友義は器用に手を動かし、女体人形も徐々に形が整ってきた。どう粘土を捏ねたのか、頭には2房の長い髪、いわゆるツインテールが付け加えられ、プリーツスカートのひだも絶妙に再現されている。侑哉がその白い素体を見ながら最近読んでいるラノベのキャラを思い浮かべていると、友義は人形をカウンターにおいた。
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