1-2 ピンクのツインテールはお好きですか

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「よし、できた。あ、もうお昼だね。じゃあ俺ちょっとメシ食ってくるから店番よろしく」 友義はそう言うと、薄い灰色一色の粘土人形を、レジの木製カウンターの上に置いた。高さは6~7センチで3頭身。いわゆるデフォルメ気味に作られている。 いってらっしゃい、と侑哉が手をふったときには友義はもう店の外に出ていた。侑哉も午後の講義があるので昼食は食べないといけないのだが、それまでには帰ってくるだろう。侑哉はいなくなった店主の代わりに、レジカウンターの内側へ移動した。 客は来ず、暇だ。 手持ちぶさたなので積み上げられてる本をパラパラめくってみるが、難しそうでよくわからない。そのままカウンターに置かれた人形に視線をうつす。 器用だな。侑哉はそう思いながらカウンターに両腕を組んで置いて、あごを乗せた。受験の最後のほうによくやった体勢だが、そうして眠りに落ちるところまでセットなのである。 いつの間にかうとうととしていた侑哉の鼻先を、不意に埃っぽい空気がかすめた。侑哉が生理現象にあらがえず、やや派手にくしゃみをすると、かすかに女の子の声が聞こえた。 God bless you. 「……ん?」 侑哉は寝たまま耳をすませたが、古書店内に洋楽が流れている気配はない。そもそも本選びの邪魔になるからと、友義は音楽をかけないのだ。侑哉は少しだけ頭をあげる。 「……何時」 半ば寝ぼけたまま呟いた侑哉は、別に答えを求めていたわけではなかったので、再び耳に届いた女の子の声も夢の中のものだと認識した。 「11時24分」 夢のわりに分刻みなんて自分はこんな几帳面な性格だったか、と侑哉は思いつつ、まだ5限までは時間があるのを確認して再び寝ようとした。 「聞こえた?」 うん、と侑哉は突っ伏したままうなずく。 「きみが、バイトの人?」 うんうん、とさらに侑哉は頷いた。それにしても、この高い女子の声は記憶にない。母は普通に大人らしい抑えた声だし、そもそも男子校だった侑哉は彼女がいなかった。 ちょっと悲しい気持ちを呼び起こされ、振り払うように体勢を変える。すると、ピンク色の丸く小さな頭が視界に入った。 「ピンクのふわふわ……」 侑哉の発した声に、そのピンク色の髪をした女子は立ち読みの本を手にしたまま、くるっと振り向く。小柄な体とピンクのツインテールは、紺のセーラー服に不思議と似合っていたが、全体的に2次元からでたアニメキャラのように見えるのは、垂れ気味の大きな目が茶色だからからかもしれない。 「おはよ」 女子はにっこり笑って、また手元の本に視線を戻した。
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