同士

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同士

 家内に「赤ちゃん抱っこ師」の国家認定に向けてのイベントに関するSNSアカウントを教えてもらった。フォロワーのほとんどが赤ちゃんがいるらしい参加者だ。家内と同じ医療職もいれば、様々な子育て支援団体の関係者らしい人もいる。子連れでお出かけしたときに嬉しかったことや、困ったこと。もし『赤ちゃん抱っこ師』が法整備されたらこういう運営をして欲しいという要望や期待など、さまざまな発言が書き込まれていた。  そんな中、なんだか毛色の違うフォロワーが紛れているのに気が付いた。 (よその赤ちゃんにわざわざ近寄ってくるなんて、変な人に決まっている。こんな資格を作ったら、国が変態にお墨付きを与えるようなものだ。) (合法ロリ法案反対! きもちわるい!)  噛みついてくるフォロワーのことは、家内も知っていた。削除されたが「イベント会場に抗議に行く」という実力行使を臭わせる書き込みをした者もいたらしい。 「国が認定した知識と技術をもった人が、無償で手伝ってくれるっていうのに、何が気に食わないんだ? この人たちは、何と戦ってる?」 「知らなーい。国とかが認定した資格獲得者に紛れるペドフィリアって、教職員やら保育士やら、スポーツインストラクターやらで既出だし、資格獲得時点ではねることは出来ないって結論が出てるよね。ペドで逮捕されると資格剥奪及びブラックリスト行きって法案があるでしょ? 『赤ちゃん抱っこ師』も適応する方針らしいよ。性犯罪って、妄想ですんでりゃいいけど、現物に手を出したら再犯率高いらしいもんね。今時、ネットサーチ掛けるとニュースに載った犯罪歴なんてすぐ引っかかるから、性犯罪で引っかかるって言ったら、穏便な社会生活は無理な話だし、充分抑止になると思ってるんだけどなぁ」 「うーん……」  ただ、赤ちゃんをその場でちょっと見てるだけって言っても、親としては見知らぬ人の手を頼ることになる。不安はあるだろう。そこら辺をどうクリアするが問題だ。 「今、案の一つとして上がっているのが、これ」  と、家内は自分の左の手首に巻いてある生体認証とGPS機能が同期しているウォッチ型のデジタルツールを示した。  これは、度重なる災害から厚生労働省が導入した医療従事者向けのデジタルツールで、登録した医療従事者が今どこにいるのか把握できるようになっている。ユーザーが任意の施設や行政と契約登録しておけば、非常時に呼び出しツールとして使える他、専用のアプリケーションと連動させればユーザー側が非常時の情報収集ツールとして利用することができる。  医療従事者が手薄になっている場所をユーザー側も把握出来るし救護場所が展開する前からトリアージが開始できるので、人員配置などのオペレートがしやすくなるという利点がある。 「これの近距離無線通信機能を使って、利用者……お世話になりたい人が登録したスマホアプリと同期させようって計画なんだって」 「へえー。でも、それを使うとなったら、結構コストのかかる資格になるなぁ」 「誰がどこで誰に接触したのかが、通信データを見ればまるわかりだし、有資格者が実働しているかどうかの把握も出来るよ。生体認証ついてるし、公にユーザー登録済みのを配布するから、ウォッチの転売譲渡は出来ない仕組み」 「ふうん……」 「それに、この近距離無線通信システムを活用したスマホアプリ自体は、聴覚視覚障碍者のサポート向けに開発された既存のものだしー」 「え? そんなアプリがあったのか?」 「オトさんが知らないってことは、そんなに知られてないんだねー。助けが欲しい人が発信すると、周囲のサポーターにコールが届くっていうアプリなんだけど。……まぁ、確かに登録しててもコールが来たことないなぁ」  家内は取り出したスマホ画面を見て溜息をついた。  システムの運用自体は、既存のものを活用できるらしい。運営ノウハウを新たに構築する必要はなさそうだ。
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