同士

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 俺が働いているのは、プログラム開発会社。いわゆるⅠT企業ってやつだ。開発部に居るので、ネクタイを締めて仕事するようなお堅いことはない。その点は性に合っているのだが、今まで無かったものを一から構築するような仕事だから、日々手探りの繰り返しだ。  よく知らない人は、プログラマというのは何だってパソコンで魔法のように作り出せる仕事だと思っている節があるが、そんなことはない。様々な論文や、ソフトの仕様書を読みこなし、何がどう使えるか情報を集めつつ、クライアントが望むシステムを構築していかなくてはならない。  勿論、クライアントはこっちが何を使ってどうやってシステムを組んでいくのかなんて知らないから、フワッとした要望を持って来がちだ。提案されたと思ったものを作って持っていくと、なんか違うと言われて、最初に言ってたのと違う機能や要望が出されるなんて、珍しいことじゃない。  実装するものによっては、予想通りの動きをしてくれないこともあって、延々テスト、原因究明、修正、テストの繰り返しとなることもある。結局、こっちの所為ではなく、実装する基本ソフトの問題だったりして、アプローチの変更を余儀なくされ、これまでの仕事が徒労になることもある。  取引先によっては仕事自体が秘匿事項になることもあって、いかに仕事でストレスが溜まったとしても、愚痴一つ吐けない。そもそも、愚痴を言ったところで現状はどうにもならないのだから、愚痴るのは好きじゃない。  その点、家内は溜まったストレスはぶわっと吹き出してケロリとして前を向くタイプ。俺的には、管を巻いたところでどうにもならないことを延々愚痴られるのは辛いのだが、家内曰く「管を巻くことで自分を客観視してドツボにハマることを回避している」のだそうだ。 「聞いてくれるだけでいいんだわ」  家内はヘラっと笑う。でも、聞くだけというのは、案外難しい。愚痴っていうのは、改善したい問題点だと思ってしまうから、愚痴を無くすにはどうしたらいいのかと、ついつい頭が回転してしまい自分なりの解決策を提案してしまう。  いや、それは求めてないし、と家内に言われて、最初は随分とイライラした。「女性脳と男性脳の違い」とか「理系的思考と文系的思考のアプローチの違い」とか言われて、だんだんと慣れていった感じ。今では、そういう捕らえ方もあるんだな、と思えるようになってきた。  家内も今では俺の理系的思考を「変なのー」と言いつつも理解してくれている。対人でストレスを解消しにくい厄介な性質(たち)であることも、なんとなく分かってきたらしい。休日の酒の量が増えたり、イライラした顔で帰宅したりすることが多くなってきたことに、最近、心配する言葉が増えてきた。  心配されても状況は変わらないわけだから、俺としては鬱陶しいだけなんだが、気遣わないわけにもいかないのだろう。それでも、余裕のない時には、気遣われるのもしんどくなる。  『赤ちゃん抱っこ師』の話を振ったのは、そんな俺を見かねて、のことだったのでは? とも思う。仕事でいっぱいいっぱいになっている俺に、ちょっと目先の違う世界を見て息を抜いて欲しいと思ったのだろう。  厄介な性格ですまんなぁ。
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