同士

3/4
前へ
/21ページ
次へ
 プライベートで登録しているブログサイトに『赤ちゃん抱っこ師』のことを書き込んだ。俺のプライベートブログには、一頃ハマっていたべイプ関連の人脈とFPSネットゲームの仲間が繋がっている。  なんでFPSゲーム仲間に『赤ちゃん抱っこ師』の話題がふれるのかと言うと、ボイスチャットで絶賛子育て中をにおわせたチームメイトにブログのアカウントを教えたからだ。チーム募集のメンバー条件に「子育て中パパ歓迎。我が子自慢しようぜ!」と書き込んでおくと、案外と新米パパメンバーが釣れることも解った。 「最近ムスコの夜泣きがヒドイ」 「嫁と喧嘩した!」 「ついにイヤイヤ期に突入したぜ」  ヘッドフォン越しの会話の合間に聞こえてくる、新米パパの魂の叫びを聞いて、俺の通った道だと苦笑した。誰にもぶつけられないイライラをFPSで発散しているのだ。  先輩親爺として意見を求められることもあれば、子育てあるあるに共感するだけのこともあるし、家内からの受け売りで「嫁心理」を述べることもあった。  家内の言っていた「当事者にならないと問題点が解らない」現実も垣間見た。俺もそうだったが、自分に子どもができて初めて「赤ちゃんって、こんなもんなんだ」を知る。ただ人間のミニチュアだと思ったら大間違い。未熟未完と可能性の塊だ。  いつものメンツがネット上の「戦場」に集まるのは、だいたい週末の夜。顔も本名も知らない相手だが、子どもの年齢=父親歴が名刺代わりだ。 今夜も、指定時間内に拠点を維持するゆるゆるミッションをグループチャットでつながった同士でだべりながら遊んでいた。 「赤ちゃんって、基本下痢なんすか?」 「お前んとこ生まれたばっかだよな? あったりまえだろ。水分しか摂ってないんだもん。奥さん、里帰りからいつ帰ってくんの?」 「あ、そうか! 母乳って、マジで水分! 戻ってくるのは来週末。そしたらしばらくご無沙汰っすねー」 「いいねー。月齢の浅い赤ちゃんは。あ、西側手薄になってる! 誰か援護ヨロ」 「了解。後ろから行くわー。嫁さんの睡眠時間と食欲には要注意だぜ」 「あーおー……ちょい待って待って死ぬ死ぬ……」 「俺んとこはウンチ出なくて三日目でさー。嫁がビビってるわー」 「そろそろひり出して欲しいよね。っと、すまん、やられたリスポーン」 「あ、出た出た!」 「ウンチが?」 「ちげー。敵! ワンキル……おっしゃ、ツーキルっす」 「オーケー。あ、ちょ! このタイミングでリロードは勘弁!」 「綿棒浣腸って、結構効くよなー」 「何それって、おっしゃ、グレネード決まった」 「拠点、守ってんのか破壊してんのかどっちだよ」 「えー? もー嫁さん、綿棒浣腸やってみてんじゃないの? 便秘の時のファーストチョイスじゃん」 「お、いいタイミングでミッション完了。すんません、オレ離脱しまーす。嫁と交替の時間」 「おつかれー」 「おつでーす」 「またなー」 「サンキューです」  いつも、だいたいこんな感じ。一緒にミッションに参加しなくても、銃器のカスタマイズしたり、メンバー募集を眺めたりしながらダラダラ喋るだけのこともある。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加