同士

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 ミッション終了後、メンツの一人にブログの内容をふられた。 「『赤ちゃん抱っこ師』って、なんかいい響きですよね。うちの子が大きくなったら、俺も資格取るかなー」  ボイチャ越しに呟いた「チャー」さんには、八か月の娘さんがいる。「うちの娘は宇宙一可愛い」が口癖だ。ハンドルネームは、娘さんが自分を見て初めて言った言葉、らしい。都外通勤圏からの電車通勤だと聞いている。来春には保育園に入れる予定なんだとか。  先日俺のブログに、「保育枠に余裕のある隣県に転出したら、都内からの脱出組と競合することになって条件的にはあまり変わらないことになってしまって失敗! みんな考えてること同じなんだな」と、コメントしていた。  俺の住んでいる地域は都内でも待機児の少ない方だが、お勧めしたくてもチャーさん的には乗り換えが発生してしまうので現実的ではないし、共働きの嫁さんの勤務地も考えると選択圏外だ。実家が遠方な上、晩婚だと両親は高齢。介護と子育ての、いわゆるダブルケアにならないだけマシ。都心が勤務地のヤツは、みんな、似たり寄ったりだ。 「イベントには家内と参加する予定なんですよ」 「バニカスさんとこ、夫婦仲良くていいですねー」  俺のハンドルネームは「バニカス」。付けた当時好きだったべイプのフレーバー「バニラカスタード」を名乗っている。俺ら夫婦は仲がいいっていうか春が長かった分、もはや戦友のような感じ。仲たがいするネタもない。今回イベント参加を決めたのは、仲がいいというより、俺の「赤ちゃんが見られるかも」っていう下心だ。 「先日、義母が入院して、嫁が娘連れて一週間ほど実家に帰ってたじゃないですか」 「ああ、そんなこと言ってましたね」 「戻ってきたら、娘が俺に人見知りしたんですけど、こういうことってあります? メチャクチャ凹みましたよ」  俺は思わず吹き出した。 「あるある! 俺もありました! あれ、ホント凹みますよねー」 「ええっ! そんなことあるんですか?」  ボイチャに割り込んできたのは「トーマス」さん。息子さんが確か五か月。出張が多い仕事だとかで、嫁さんの実家にマスオさん状態で同居中だ。FPSメンバーに「赤ちゃんにとってレアキャラになると将来嫌われる」と散々脅されて、出来る限り息子と関わるように心がけているという真面目なパパだ。 「人見知りは成長の証ですから、一概に悪くは言えないんですよ。相貌の認識区別が出来るようになったってことなんですからね」 「そうなんですねー。いま、顔見るとメッチャ笑ってくれるんですけど。……大好きなパパの顔、一週間で忘れちゃうのかぁ」  溜息まじりのトーマスさん。チャーさんの笑い声が聞こえる。 「いいなー。オレも早くそういう会話に参加したいっす」  呟いた若い声は「電ボ」さん。  しょっぱなに「赤ちゃんは基本下痢」発言をしたほやほやの新米パパだ。  さっき離脱したメンバーは、「ロック」さんで小学生の長男を筆頭に三人の男子の父だ。三人目が生まれたばかりで、夜中のミルクは嫁さんを休ませてロックさんの担当なのだそうだ。いつもなら、俺と同じく先輩親爺として経験を語る側。男の子の成長はまた、娘のそれと違って面白い。  他にも何人か、メンバーがいる。ブログにコメントを残してくれてたメンバーは、いずれも『赤ちゃん抱っこ師』になりたい俺を応援してくれていた。
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