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地震
眺めのない部屋………再び
地震
「 昨日の地震、
大変だっただろう 」
朝早くかかってきたのは、昨晩遅くにあった強い地震を心配する神奈川からの電話だった。
寺の固定電話にかかってきたのは、彼は俺にいくぶんかの遠慮を抱えているせいか。
受話器の向こうの彼の隣にいるであろう義妹の心配げな顔も見えるようだった。
「 あぁ、流石に驚いたよ、
まぁ10年前のあれよりは小さかったから。
仏具が倒れたのと、
朝慰霊所の方へ行ってみたが、
やはり少し倒壊してるものもあった」
「 そうか、
来週なら手伝いに行けるから、
手がいるだろう?
ちょうど墓参りもしたいって言ってるし」
と俺が断る隙を与えないよう少し強めに言い募ってくれるのはありがたい。
やはり被害の出てる中、
男の手はいくつあっても助かるので、ここは素直に礼を言った。
それでも一応。
「 変な感染症流行ってるから、
大丈夫か?」
と聞くと、
「 あー、神奈川は相当劣等生だから、気になるか?
申し訳ない」
という返事が返ってくる。
「 いや、こっちは人も少ないしそんなに大変じゃないが、
そっちは生徒たちとか、クラスは人減らしてとか、オンラインとかで?」
「 いや、俺のところはそんなすごい進学目的でもないからのんびりやってる。
受験の子達は、体調管理だけしっかりとみてやってるだけだ」
「 そうか、それなら」
と話をお終いにしようとすると、
最後にやはり気になっているのか、
「 椎名はどうしてる?
元気にやってるか?」
と少し低めたより真剣な声に変わる。
あぁ、もしかしてこれが真っ先に聞きたかったことか?
と揶揄うつもりも、
自分自身が一番気にかかっていることを図星され意外に素直に言葉が出た。
「 それが、まぁ、明は最近少し塞ぎ込んでて 」
「 そうか」
暫くお互いに無言になった。
「 まぁ、二人で来てくれたら少しはなんか変わるかもしれないから 」
と言うと、
「 そうだといいな、とにかく
金曜の夕方にはそっちに行くよ 」
最後にまたとか気をつけてとか言葉を交わして電話は切れた。
受話器を戻しながら、
昨夜あんなことがあったのにまだ直に声を聞いてないことが気にかかる。
最近では、
休日、早朝の堂の掃除もなるべく二人にならないように避けられている気がするし、
読経の後の朝粥も一緒には食べない。
やはり昨年秋、
市中のアパートに住むと言って庫裏(くり)から出て行くときに引き留めれば良かったと、
最近ではちょくちょく後悔が湧き起こる。
職場が遠くなるし、夜人と接待で会うことも増えて忙しくなるからという理由にどうしてか負けた自分。
昨日の地震の後、直ぐに携帯に連絡を入れたが、
何度もお話し中で、最後は仕方なしに現状を伝えながら打ったショートメールに、
大変でしたね、余震があるかもしれません、どうか気をつけて。
僕は大丈夫です。
と簡単に夜中過ぎに返事が来たのみだった。
明も昨夜の地震で休日とは言え、仕事先でやる事があるだろうが、
昼には連絡をどうしてもつけてやろうと一人寺の庭から遠い海に向かってガッツポーズを取った自分が余計に情けなかった。
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