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第一話
☆
「ったく、お前はここで何年社員やってんだ?ええ?何度も言うが、お前には書類を作るセンスがないんだよ!!」
すみません、と俺は小さく呟いた。
デスクに両肘を付いて、鼻息を荒げる俺の上司。その前に立たされるのは、今日二度目だ。
いや、今日だけじゃない。昨日も、その前も。俺はどうもこの上司に嫌われている。
入社してもう何年になるのか、数えるのも面倒になってしまったが、今年30になるのだ。同期はとっくに辞めているようなブラック企業で、日々胸糞悪い上司の恫喝に耐えている理由は、これといって無い。
ある時同期のひとりが、「うるせぇなぁ毎日毎日!!」と叫んで辞めた。
またある時は、仕事中に突然倒れてそれっきり音信不通になった同期もいた。
だけど俺は、こんな会社でも辞めようとはしない。
別に、どうでもいい文房具やら雑誌の広告なんかを作っているこの会社が好きなわけでは決して無い。辞めようと思えばいつだって辞められる。
でも辞めた後のことを考えると、再度就職活動をする元気は、持ち合わせていないというのが理由だ。
30の男が、このご時世再就職はイタイ。ただ、それだけの理由で俺は、この罵声に耐えている。
黙って俯いていれば、そのうち開放される。
目を閉し、耳を塞ぎ、口をつぐんでいれば、あっという間に過ぎていく。
実際にそんなことはできないが、上司と目が合わないようにし、話を聞き流し、すみませんしか言わない俺は、物理的に感覚を遮断しているのとかわらない。
「おい!聞いてんのか!?昼までに終わらせろよ、いいな!?」
「はい」
バン、とつき返された書類を受け取って、俺は自席へと退散する。
午後の会議資料となる書類だ、急いでやり直したとしても今日は昼飯抜きだな。
まあでも、我関せずと俯いてばかりの同僚の中に、昼飯を共にしたい奴も、上司のグチを吐き出せる奴もいないのだ。寧ろ昼の休憩なんて無い方がいい。
卑屈な人間というわけじゃなく、ただただ全てが面倒なのだ。
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