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そんなのはただの希望的観測だったのだと、思い知ったのはわりと早い段階で、それからは惰性のような生活を送っている。
嫌いな上司、我関せずの同僚、早々に消えていった同期。
この世の中に、他人を慮る奴なんていない。
と、思っていた。本気で。
「お疲れ様なんて、言われたの初めてだ」
「そうなんですか?あんなにお仕事頑張ってるのに」
「頑張ってるわけじゃない。仕事だから」
自分でも変な事を言っているなぁとは思う。普通は仕事だからこそ頑張るわけだが、もはや仕事を頑張ろうとは思えない。
かと言って何か他のことをしようとも思わない。
若い子を前に言うことでもないが、すっかりやさぐれた大人なのだ。
「ところで、そんなところで何してたんだ?」
気恥ずかしくなって話題を変えた。昼休憩はとうに過ぎているのに、この若者はここで何をしているんだろう?
「午後の二コマ目から講義で、それまで時間潰そうと思って」
植え込みの向こう側、よくよく見てみれば、どうやら昼食の最中だったようだ。
「店に戻っても良かったんですけど、天気がよくて…」
「よその会社の敷地でピクニック?」
「まあ、そんな感じです」
変な奴、と思ったけど口には出さないでおく。
「ってもこんなタバコ臭いところで食べなくてもいいだろーに」
「あはは…そう、ですよね」
なんとなく歯切れの悪い返事だ。最近の若者は一体何を考えてるのか、おっさんの俺にはよくわからない。
「そろそろ戻らないと。弁当、ありがとうな」
咥えていたタバコを灰皿に投げ捨て、再度礼を言う。
「ちゃんと食べてくださいね」
「あぁ、夕飯にする」
「できれば昼ごはんにして欲しいんですけど」
ジト目で見つめられ、俺は少し微笑んだ。
「俺もそうしたいよ」
確かに腹は減っている。でも時間がないのも本当だし、どうせ今日も残業なのだ、早めの夕飯に丁度いい。
「明日はお昼に買ってくださいね!」
去り際にそんな声が聞こえて、俺は振り返って肩をすくめる。
「ああ、そうする。じゃあな」
気のいい若者だったなぁ、なんてマジでおっさんみたいなことを考えた。
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