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プロローグ
☆
後悔のできる人間は、きっとまだ、心に余裕があるんだと思う。
あの時こうしておけば良かったと、考える時間があるのだから。
俺は違った。
親に言われるままに生きてきた人生の中で、何かを自分で決めたことがあるだろうか?
何も考えず、ただ望まれるままに退屈な人生を歩んできた。
そうしてすっかり大人になった。
思考することを放棄した人間は、喜びも悲しみも無ければ、後悔することもない。
惰性だ。
人生とは、惰性的に生じる時の流れそのものだ。
いつ終わるのかも自分で決められない人間が、機械のようにただ生活している。
世の中はそんなものだ。
だから今日も、俺はただ心を空っぽにして、目の前の理不尽を聞き流す。
書類に誤字だの、会議時間の変更だの、刷った枚数が足りないだの、生意気な顔だの。
半分は確かに俺が悪いけど、半分は俺の所為じゃない。
そうやって、塩梅よく折り合いをつけて生きている。
人生は楽じゃない。
生きることは楽じゃないけど、だからって自分から終わらせることも楽じゃない。
退屈だ。
とてつもなく、人生とは退屈だ。
例えば今日の帰りに、一等の宝くじでも当たれば、少しはマシになるかもしれない。
まあ、宝くじなんて買ったことないけど。
もしくは今日の帰り道、事故にでもあえば、諦めがつくのかもしれない。
俺にはそんな度胸なんてないけど。
ああ、何かひとつ、変化があれば良いのに。
この退屈な日々を劇的に変えてくれる変化が、ひとつでもあればいいのに。
そんなことを、本当に望んでいるのかもわからないが、ツラツラと考えるほどには、俺は変化を求めていた。
こんな形で、変化が訪れるなんて、思ってもいなかったから。
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