引きこもり探偵

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 ドアを開けた瞬間、起戸見文時(きとみふみとき)は悪寒を感じ、その場で硬直した。  男と目が合ったからだ。  それはただの男ではなかった。ただの男であれば文時がこの時、ドアを開けた瞬間に、一歩後退るなどと言う行動にはならなかったはずだ。  男は夜にも拘わらずティアドロップのサングラスをして、顎から頬骨までを覆い隠す大きなマスクを耳に掛けていた。頭髪もニット帽で隠されている為、どこの誰だかを見抜くことはできない。それでも目の前の人物を男と断定できたのは、メンズのビジネススーツを着込み革靴を履いていたのみならず、男性が好んで付けそうな香水が鼻孔を突いたからである。  文時はドアノブに手を掛けた。  男の片手にはナイフが握られていたからだ。 (くそ! 間に合え!)  文時より一挙動早く、男はドアの間に革靴を滑りこませていた。力の限りドアを引くがびくともしない。ひょろっと痩せた文時の体では、力任せに男を弾き飛ばすようなことはできない。文時が次の行動を起こすより早く、男は白刃を突き下ろしていた。  心臓一突き。  文時は勢いのまま仰向けに倒れた。 (不覚……。せめて、……澄亜(すみあ)さんが、鉢合わせに、なりません、ように……)
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