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3. カシワダくんの恋
初めて君の部屋に行った時、ミラーボールが回ってた。
さすがに天井じゃなくて。
薄暗い部屋の中、床に置かれたミラーボールに七色の乱反射。
ほんとうに髪の短い女の子たちばかりが、おしゃべりしてお菓子を食べてた。
後から、ウィッグの子もいたって聞いたけど。
君はオレンジ色のポータブルレコードプレーヤーを二台並べてDJごっこしてて。
壁にはモノクロームの映画が投影されてて、君の友達がこのパーティの撮影をしてた。
知らない女の子がやって来て、まあ、君とだって初対面も同然だったけど、俺にシンプルで、すとんとした形のワンピースを着せた。
髪型はそのままでいいって言って、俺にメイクをした。
とにかく、ワンルームマンションの一室に集まるには多過ぎる人々と、命がけみたいなお洒落さに圧倒されてた。
君は俺を見付けると、DJを誰かと代わって、俺をベッドに連れて行った。
ベッドの上には何人か女の子がいて、俺たちに場所を空けてくれた。
「カシワダくん、来てくれてありがとう。」
音楽とざわめきがうるさくて、君は俺の耳元でしゃべった。
「その格好、かわいいね。」
スカートで下半身がすうすうする。
君は俺のふくらはぎに手を伸ばした。
筋肉がきれいだよなぁ、と言って。脛毛はあるんだね、とか。
隣で話を聞いてた女の子が、やってあげると言って、俺のスネを突然T字カミソリで処理し始めた。クリームをべったり塗って。
よく見たら、その子は男の子だった。さっきオレも剃ったんだ、とか何とか。
俺は君に可愛いって言われて、くらくらしてきた。
君の方がよっぽど可愛いのに。
君はごく普通の格好をしてた。
人のひしめいてるベッドの上で、よく分からないことをしゃべっているうちに、なんと君は寝てしまった。
俺は人生初の女装と人生初の膝枕行為(しかも、してあげる方)で、ものすごく混乱してた。
誰かが、「ミカミくんは、彼女が引っ越しちゃってから、あんまり眠れてなかったんだよね。」と言ったのが聞こえた。
「だからパーティばかりしてる。」
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