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6. ミカミくんの葛藤
やきもち、とか。
そういうのあったんだなぁ。僕にも。
君は今日、女の子と練習してた。妖精みたいに小さくて可愛いらしい子だった。
つまらない、と思った。
ふたりが、すごく絵になってて、すごくつまらない。
のらない気持ちで、試しに女の子の方を描いてみたけど、やっぱりつまらなかった。
何本か撮ってみたら、君への興味も無くなっちゃうのかな。
被写体としてなら、女の子の方だって魅力的なはずなのに。
僕の目は君を追ってる。
君が女の子を持ち上げる。
お尻の筋肉が緊張する。太腿の後ろ側も、ふくらはぎも、きれい。
王子さま役ってことかな。
あのお尻がすごく好きなんだけど。
とか何とか。
描くのもやめて、とりとめも無く考えていたら、うたた寝してしまった。
くしゅん、っていう音と軽い衝撃で目が覚めた。
僕は君の肩にもたれて寝ていたんだね。
君は僕にジャージをかけてくれていて、自分は練習が終わって汗が冷え始めていたのに、僕が目覚めるのを待っていてくれたんだ。
「わ。ごめんカシワダくん。」
風邪ひきますよ、と、君は僕が言おうとしてたことを言った。
慌てて起きた時に、僕の膝の上からスケッチブックが落ちた。
ちょうど、カシワダくんの踊りのパートナーの女の子、その横顔を描いてあるページ。
君は、すっと目を逸らした。
そのページから。
行き違いとか、かけ違いとか。
そういうの、あり得るのかな。
僕はスケッチブックを拾い上げ、君は自分のジャージを拾い上げた。
君はそのまま、スタジオの明かりも消さずに帰ってしまった。
僕と目を合わせないまま。
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