7. カシワダくんの葛藤

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7. カシワダくんの葛藤

 ああ、そうか、って。  君が、第5スタジオに通って来る、理由。  俺に会いに来てるんだと思ってた。  頬が熱くなった。  さっきとは違う。  恥ずかしさで、熱くなった。君が俺に会うためにここに来てるって、なんで思ってたんだろう。  最近、俺が組んでる女の子。  彼女は小柄だから、俺としては有り難い。  男性は女性の踊り手を持ち上げる宿命なんだろうか。膝とか腰とか、痛めたくはない。  スケッチブックに彼女の横顔。  まあ、可愛いよね。彼女。  踊り方は野生的な感じさえするけど。  小さくてお人形みたいな女の子。君と並んだら、すごく絵になりそう。    少なくとも。  君が彼女にどれくらいの関心を持っているのか、分かんないけど。  少なくとも、俺に関心があって来てるんじゃないってことが、分かった。  居眠りしていた君の息遣いが、まだ俺の肩のあたりに残ってた。  ジャージに首と腕を突っ込んで、君の気配なんか、そんな余韻なんか、かき消すんだ。  君の巻き毛を見つめて、ちょっぴり浮かれてた後ろめたさ。  スケッチブックを見た瞬間の、怒りにも似た感情。  知られたくない。  そのまま、君の顔を見ることも出来ずに、部屋を出てしまった。  それから、そのまま、君は第5スタジオに来なくなってしまった。  間の悪いことに、テスト期間が始まって、その後に長い夏休みに入った。  君との接点が何もないまま。  君は何をしているんだろうって、考えてる俺。  友達とパーティして過ごしてるのかな。  それとも、昔の女の子と、ヨリを戻していたりとか。夏休みは何かが起こりそう。  それでいいんだ。もともと薄い接点だったんだから。  それで、いいのかな。  いいのかな。  結局、君のことばかり、考えてる。      
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