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 あれから1ヶ月後。明日は全学年合同の新入生歓迎パーティーが催される。そのため、学校中の人たちがお祭り騒ぎだった。 「リリア、明日のドレスの準備は出来た?」 「もちろんよ」  アナと私の部屋でいつものようにくつろぎながら会話をする。  明日のために、お父様とお母様が私に素敵なドレスを送ってくれた。明日は私にとっても特別な日である。なぜなら、大好きな人に久しぶりに会えるからだ。 「明日は久しぶりにエルと会えるの」 「エルって、前に言ってたアルセン公爵家の?」 「ええ。彼は、とても大切な人なの」  エルは私の幼馴染。三大貴族家の一つ、アルセン家の長男で、私の初恋の相手でもある。アルセン家も狼神伝説の選ばれし者の家系で、彼はここ1ヶ月、家の用事で学校には来ていなかった。  しかし、明日のパーティーには参加するという趣旨の手紙をもらい、久しぶりに彼に会えることが今から楽しみで仕方なかった。 「彼に会うのは9ヶ月ぶり。これからは学校で毎日でも会えるなんて、とても素敵なことだわ」 「私もエルさんとは交流会で会ったことがあるけれど、お優しい方よね」 「うん、昔はよく私や妹と一緒に遊んでくれたの。最近は忙しいみたいだけれど、元気かしら」  エルはアルセン家の長男で、私と同じく神聖魔法の使い手。だから、彼以外に次期アルセン家の当主はいない。今彼は3学年だが、卒業したらもっと忙しくなるのだろう。 「彼のこと、好きなのね。そんなに緩んでる顔のリリアは初めてだわ」  そう言ってアナに頬を指で付かれる。私は我に返って咳払いをする。 「とにかく、明日はお互い楽しみましょう!」 「ええ、私も久しぶりのパーティーだから楽しむわ」  私たちはしばらく談笑すると、その日は早めに就寝した。  次の日、ついに新入生歓迎パーティーが始まった。早々にアナと共に校内の会場に着くと、すでに着飾った大勢の人たちで賑わっていた。 「うわぁ、綺麗。これが王都のパーティーなのね。こんなに豪華だなんて」 「王都周辺のパーティーは大体こんな感じ。私たちはまだお酒は飲めないから、ジュースを頂きましょう」  私たちはそれぞれジュースグラスを受け取る。私はジュースを飲むと、目で辺りを見渡した。  女子も男子も綺麗に着飾っていて、本当に煌びやかなパーティーだった。時間が経つにつれ、たくさんの生徒たちが入場してくる。パトリシアの姿も見えた。  ふと、先月倉庫の正面にある場所で会った先輩の少年を無意識に思い出し、彼を探してみる。ところが、会場がさすがに広いため見つかるはずはなかった。 「誰か探しているの?」 「いえ、知っている方がいないか見ていただけよ」  エルとは手紙で文通しているときに待ち合わせ場所を決めてある。私はジュースを飲み終わったグラスを下げてもらうと、そこで待った。 「それじゃあ、私はそろそろお兄様とお姉様のところに行くわ。また後で」 「また後で。楽しんで」  アナとはそこでお別れをする。彼女とお別れしてから、しばらくまた辺りを見回す。やはりあの時の黒髪の少年は見つからない。なぜ彼を探しているのか自分でも分からなくなっているところに、エルが金色の髪を揺らしながら颯爽と現れた。 「リリア、遅れてごめん。久しぶり」 「エル! 久しぶりね」  私は彼に駆け寄って彼と握手をする。9ヶ月ぶりに会う彼は何だか以前より大人びて見えた。 「何だか、前より背が伸びたんじゃない?」 「そうかな? 自分ではあんまり実感はないんだ。リリア、そのドレス似合っているよ」 「ありがとう」  彼に褒められると嬉しい気持ちで満たされる。エルと過ごす時間は私にとって特別だ。 「久しぶりに話そう。話したいことがたくさんあるんだ」 「私もよ」  私たちはパーティーの最中、時間を忘れてたくさん話した。時には他の生徒を交えて談笑しながら、エルとの時間を楽しんだ。  話し始めて1時間くらい経った頃、会場の入場口がざわつき始める。エルと私はそれに気づくと、会話を一度止めた。 「何だかざわついているわね。誰か来るのかしら」 「……殿下かな」  会場の入り口を見ると、誰かが入ってきた。人が多すぎて顔はよく見えないが、その人物が黒い髪をしていることだけ分かる。  生徒たちが入り口の方へ集中する。しばらくしてその人物は人だかりで見えなくなってしまった。 「僕たちも行く?」 「いいわ。別に興味ないもの」  生徒たちは皆王子を珍しがって入り口の方へ次々と駆け寄っていく。周りの人がほとんどいなくなった。 「よかったら裏庭に行きましょう。騒がしくなってしまったから」 「うん、そうしよう」  私たちは王子の登場で騒がしくなった会場を後にすると、静かな裏庭へと場所を変えた。裏庭には数人生徒がいるだけで穏やかな空気が流れていた。  私たちは裏庭のベンチに腰掛けると静かに話を続けた。 「学校生活にはもう慣れた?」 「慣れたけれど……ウィトレー家のお嬢様が権力を盾に好き勝手していてあまり気分は良くない」 「パトリシアか……」  エルはパトリシアのことを知っているようだ。彼は王都の交流会には毎回出席しなくてはいけないから当然かもしれない。 「でも、私は負けない。いつかこの国から魔法で優劣をつける制度を失くして、人々が平等に暮らせる環境を作りたい」 「……リリアはすごいな。君が王様だったら、きっとこの国は良い方向に変わるだろうね」  そう言ってエルは私の頭を自然に撫でる。頭を撫でられるのは少し恥ずかしいけど嬉しかった。  私がエルに話そうと口を開いた時、前方から突然第三者の声が響いた。 「楽しそうだな、エル」  そこにはなぜか先月倉庫の正面先で会った黒髪の少年がいた。彼はエルのことを名前で呼んだ。彼も確か3学年と言っていたし、エルとは同級生。もしかして彼らは友達なのだろうか。 「殿……」  エルが何かを言おうとしたが、黒髪の少年が手でそれを静止する。彼は私たちを見つめると言った。 「随分と仲が良さそうだな。まるで婚約でもしているかのようだ」  エルを見上げると、彼は黒髪の少年を睨んでいる。それに対して、少年は不敵な笑みを浮かべている。エルはこの少年とどういう関係なのだろうか。 「……何しにここに来た?」 「いや何、親友の顔を見に来ただけだ。お邪魔だったか?」  少年はエルのことを親友と呼んだ。それに対して、依然エルは敵意のこもった目で彼を見つめている。エルのこんなに緊迫した様子を見たのは初めてだ。私は決心して彼らに口を挟んだ。 「ちょっと、あなた! あの時もそうだったけれど失礼な態度ね。最低限度のマナーも知らないの?」 「お前は本当にうるさいな……。お前の声は耳に響く」  そう少年に呆れたように言われる。少年を分かりやすく睨むと、一瞬エルの方をちらりと見る。先程よりは落ち着いているようだった。 「……どういう関係かは知らないが、リリアには近づくな」  エルは敵意を込めて少年に突然そう言い放つ。少年は噴き出して返答した。 「言われる前から近づかねーよ、こんな女」 「何ですって?」  私が彼に憤慨してそう言うと、分かりやすく耳を塞がれる。その仕草に余計腹が立った。 「まあ、いいや。改めてリリアーヌ殿、俺はシーグルド。エルと同級生で一番の親友、よろしくな」  そう言って彼に手を出される。私は「よろしく」と返答して大人しく彼と握手をした。 「リリア、僕たちは親友なんかじゃない。……こいつには気をつけろ」 「? 分かったわ」  エルの言うことはいまいちピンと来なかったが、私は大人しく頷いた。
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