うちに分かる石屋さんがいます

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「うちに分かる石屋さんがいます」  工務店のセールスマンは、嬉しそうに力説した。  家を新しく建てることになり、工務店を訪れた俺達夫婦。最初はごくありきたりの建て売りを頼むつもりだった。しかし、セールスマンの口車にのせられ、次々とを付け足すことになった。  まず最初が内庭だ。  内庭とはその名の通り、家の中にある庭だ。バームクーヘン、あるいはドーナツの食べられる部分が家屋としたら、真ん中の空間に庭を作ったようなもの。   「おいおい。それじゃ住むスペースが減るじゃないか」  俺が苦笑混じりに言うと、すぐにセールスマンが遮った。 「大丈夫です。3階部分を建て増ししましょう」  ご近所さんより屋根が高いというのは、そんなにいいことなのか。  妻がうっとりした声でつぶやく。 「内庭つき3階建てなんて素敵だわ〜」 「庭に自動で水をまけるよう、雨水を貯めておく取水枡を設置しましょう」 「まあ、エコロジーだわ!」 「雨が降ったら、庭にバケツを置いて置くんじゃだめなのか?」  俺の発言は完璧に無視される。 「内庭はどんなタイプにいたしましょうか?奥様」 「そうねぇ。シンプルなのがいいわ。石とか砂利を敷き詰めたような」 「軽石なんかいかがでしょう?掃除も楽ですよ」 「いいけど、専門の方にお聞きしたいわ」 「うちに分かる石屋さんがいます」  工務店のセールスマンは、嬉しそうに力説した。 「まあ!それなら安心して任せられますわ」 「奥様のようにお目の高い方にそう言っていただけると、私共といたしましても大変光栄であります」  そう言って妻とセールスマンは笑い合っている。    いい気なものだ。  お金を出すのはこっちなのに。    隣の席で俺は、これ見よがしにため息をついてやったが、二人は全く気にするそぶりもない。  やれやれ…… 「ではオプション込みの見積もりを出させていただきますね」  そう言って、セールスマンは嬉しそうに電卓を叩きだした。 「え〜と、まずは内庭と、それから……軽石やなんかも……3階建てにして、取水枡をと……」  弾き出された数字は当初の予定の3倍だった。    呆然とする俺の横で、妻はすでにインテリアカタログを見ている。  あ〜、余計なオプションを足したばっかりに……  頭の中で、セールスマンの言葉が断片的に蘇る。  内庭……軽石や……3階……枡……  うちにわかるいしやさんがいます。                   fin
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