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#10 夏のトマト
山間の祖父の家では、たくさんの野菜を作っていた。
幼い頃は毎年お盆に遊びに行っていた。朝の訪れが早いその家で、午前中のんびりと過ごし、昼過ぎに、真っ赤に熟したトマトをもぎって、門までの長い道をとことこ走って、前のうちの水場に向かった。
山の湧き水を利用したその水場は、上から三段になっていて、高いところから順に水が流れ落ちる仕組みになっている。一番上の段の水に手を入れると怒られた。
『そこは、飲み水』
二段目には誰かのスイカがもう冷やされていて、その横に私たちのトマトを浮かべた。トマトはぷかぷか浮かんで広がった。三段目の水に手を浸していると、身体の芯まで冷たさが届くように感じた。
カナカナカナ、と蜩の声が聞こえる時間。
『トマトどうした~』
祖父に言われてあわてて取りに行き、水から上げてがぶっとかじりついた。
甘くて、冷たくて、最高のおやつ。赤い汁が顎をつたって胸に落ちた。
『あらまあ、服よごれちゃったねえ』
祖母は怒りもせず、ワンピースを着替えさせてくれた。
夜には家の裏にある神社で夏祭りが始まる。私は大人たちが櫓を組む様子を、従兄弟たちと見に行った。夜になると浴衣を着せてもらい、皆で出かけて、りんご飴を買ってもらった。
気がつくと、記憶の彼方で小さく光っている夏の思い出。
*From "What doesn't help"
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