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#02 キーマカレーと独創性
「ただいま」
扉を開けて暗い空間に声をかけた。一人暮らしだから返事がないのはわかっているが、子どもの頃からの習慣だ。
仕事帰りに寄ったスーパーのレジ袋をシンクの横に置いて、着替えた。休み明けの月曜日は朝からきつい。何とか身体をならして帰ってくると、もう遅い時間だ。簡単にキーマカレーを作ろう。
手を洗い、冷蔵庫の中から残っている野菜を探し出す。玉葱、人参、エリンギが一本、ピーマンが一個。全部使う。
全ての野菜を全部細かく刻む。タンタンタン……私はみじん切りが好きだ。同じことを繰り返す、ルーティンワーク、会社でもしている。以前はクリエイティブな仕事がしたいと思っていたが、結局、私の性格は、ルーティンワークの方が向いている。料理だって作れるのは昔から世間によくある母が作ってくれたものばかりだ。
今日、上司が求めていたのは独創的なアイデアのようだったが、浮かぶわけがない。そんな練習していない。学校は知識を一方的に与えられ、それを覚えるところだった。人とは違う観点でモノを見ると変わってると言われ、親も先生も周囲と同じ歩幅で歩くことを良しとした。なのに、今さら。
あ、いけない、単純作業をしていると余計なことを考えてしまう。気づくと玉葱だけが残っていた。茶色い皮をはがし、半分に切って根元まで切らないように数本切れ目を入れる。玉葱を90度動かし、端から切っていく。ちなみに、ちょっと粗めのみじん切りが食感がよくて好きだ。
フライパンを取り出し、火にかけて温めたら、油をひかずに買ってきた挽肉をのせ炒める。肉の油がしみだしてきたら、刻んだ野菜を入れ、炒めて水を入れて少し煮る。その間に、冷凍庫に入れておいた一人分のご飯を解凍しておく。
火を止めてブロックのカレールーを1、2個投入し、木べらで混ぜる。とろりとしてきたら火をつけ、表面がふつふつしてきたらできあがり。なめるとちょっと辛い。次は生クリームかバニラアイスでも入れてみようかな。
実家から送られてきた小ぶりのらっきょうを添えた。万人受けするカレーと希少価値の独創性、かけ離れた2つのことを考える。では、いただきます。
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