#04 ひとり暮らしとオレンジティー

1/1
前へ
/11ページ
次へ

#04 ひとり暮らしとオレンジティー

「じゃあね、入学式の日にまた来るね」 そう言って父と母は出て行った。 やっと受験が終わり、今日から念願のひとり暮らし。誰も居なくなった部屋を見まわした。 窓には薄いグレーのカーテンをかけ、ベッドには深い紺色のカバーをかけた。テーブルと小さな本棚は白。テレビはないがプロジェクターを取り付けた。これで思いっきり映画を見よう。部屋の隅にはまだ段ボールがいくつか重なっていた。 母は、男の子みたいなお部屋ね、と言った。確かに子供の時はピンクが好きだった。その後、水色、黄色、と変わっていき、部屋は色の洪水となっていた。ひとりで暮らすようになったらシンプルに暮らすのがずっと夢だったのだ。 パソコンを開き、音楽をかけた。3月の終わり、誰もいない部屋は肌寒い。温かい紅茶でも飲もうと思い、キッチンに立った。 わあ、せまいな。 コンロは一口、薬罐はどこだっけ。シンク下の扉を開ける。取り出して少し水を入れて火にかけた。 真後ろに小さな食器棚がある。並べたカップを手に取った。シンプルな白いマグカップは紅茶の色を引き立てる。ティーバッグを探して段ボールを開けるが見つからず、薬罐がピーとなって、慌てて火を消しに行く。 大好きなオレンジティーの箱が見つかった。母が、あなたはコーヒーより紅茶派よね、と入れてくれたものだ。 カップに熱いお湯を注ぎ、両手を温めた。 今日からひとり。好きなことをしよう、きっとどんなことでもできる。私はとても清々しい気分だった。ベッドの縁に腰をかけてニヤニヤした。 ちょっと片付けをしていたら、日が暮れてきた。いけない、買い物は明るいうちに行きなさいと父に口酸っぱく言われていた。慌ててコートを着込み、家を出た。鍵を閉めるのを忘れて慌てて戻る。アパートの横には自転車が何台も並んでいる。皆、同じ大学の学生だろう。その中の一つに鍵をさし、引き出した。 今日は何を食べよう。うどんかな。めんつゆとか調味料も買わないと。スーパーはこの道を真っ直ぐでよかったっけ。 見知らぬ街並み、初めまして。すぐに私になじむだろう。私は歌を口ずさみながら、風をきって自転車をこいだ。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加