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#06 卵焼きは甘くない
壁に貼られたクラス替えの表を見た。やった、今年もアイツと同じクラスだ。
放課後、アイツがひとりで廊下を歩いていたので呼び止めた。
アイツは立ち止まって振り向いた。
「あの……えっと……」
私は下を向いて手をきゅっと握りしめた。ねえ、この微妙な間、普通わかるでしょ、今から告白するって。
でもアイツは不思議そうな顔をして、私の次の言葉を待っている。
「好きです」
アイツは一瞬きょとんとしたが、すぐに笑顔で、「ありがとう」と言った。
それはまるで、「卵焼きが好きです」「僕も」というやりとりと同じ空気だった。
それから1週間、私とアイツの関係は告白の前と全く変わっていない。どうやらアイツは私に興味がないようだ。私は隙があったら突撃しようと、アイツの動向を探っていた。
アイツは周りに人がいないかのごとく振る舞う。本を読んだり、あくびをしたり、勉強をしたり。私は周りの目をいつも気にしていたので、アイツのそんな自然なところが好きだった。
昼休み、アイツは自分の席で、難しそうな本を読みながら菓子パンをかじっていた。私は親友のノアちゃんに宣言した。
「ねえノアちゃん、私アイツの目の前ですごく美味しそうなお弁当を食べて、アイツの注意をひこうと思う」
親友にがんばれと励まされ、見栄えのよさそうなおかずについて考えた。
翌朝、5時半に起きてお弁当を作った。まずはアスパラの肉巻き。ピーラーで根元の固い皮をむき、3センチほどに切って茹でる。茹で上がったらざるにあけ、ロース肉を巻いてフライパンで焼く。
次は赤と黄色のパプリカ。オリーブオイルとコンソメでソテーするだけで美味しい。そしてブロッコリーは塩茹でするだけ。
卵焼きはお弁当のすき間を埋めるために作る。甘いものが苦手な私は、いつもだし巻き卵だ。
お弁当に詰めると、色とりどりで我ながら美味しそうだ。遅刻しそうになり、慌てて家を出た。
そして昼休み。
ノアちゃんに励まされ、アイツの席の前に座り、アイツの机でお弁当を広げた。
アイツは不思議そうな顔で見ていたが、私がお弁当の蓋をあけると、美味しそうな弁当だね、と言った。
どこか他人事でムッとしたが、あっ、とアイツが言った。
「卵焼き」
さては好きなんだな。表情と声色が少し変わった。
「甘くないよ、だし巻き卵だから」
私が言うと、
「いいね」
と笑った。私は卵焼きを、箸でつまんで持ち上げた。
「食べる? ……あげないよ」
私がそのまま食べると、アイツは顔を赤くした。その調子、少しずつ、私のこと意識するんだよ。
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