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#07 雨の朝
憂鬱な気分で目が覚めた。
窓の外から、さあっという静かな音が聞こえてきた。今朝は雨か。電車通学で、駅まで自転車で通っているので、雨の日は困る。
「お父さん、駅まで送って」
車で通勤している父に頼むと、いやそうな顔をした。私を送ると会社まで遠回りになるからだ。
そうはいっても娘のお願いはだいたい聞いてくれる。私は鏡の前に立ち、湿気で広がる髪をヘアアイロンで押さえつけ、肩までの髪にブラシを入れた。昨日、動画を見すぎてまぶたが重たいなあ、朝イチの英単語のテスト、どうしよう。頭の中を脈絡のない言葉が浮かんでは消えた。
時計代わりのテレビで、気象予報士が梅雨の季節に入ったとか入っていないとか、爽やかな笑顔で話している。
テーブルに着き、焼き立てのトーストの上にバターを塗り、その上にブルーベリージャムを塗って食べた。熱で程よく溶けたバターにジャムがしみ込んで、美味しい。ブルーベリージャムは、去年庭でとれたブルーベリーの実を煮詰めて、ジャムにしたものだ。父は腕まくりをして実をとっていたので、毛虫に刺されて痛がっていた。
6枚切りを一枚、アールグレイティーとアロエヨーグルトをさっと食べ終え、歯を磨く。「お弁当」母に手渡されて「ありがとう」と受け取り、家を出た。
父はもう車の中で待っていた。私が後部座席に乗り、「お願いします」と声をかけると、父は何も言わずに車を出した。私はイヤフォンを耳につけ、いつもの曲を聴き始めた。窓の外に目をやると、いつもの道は朝なのに暗い。雨、やだなあ。帰りまで降るんだろうか。しばらくすると運転中の父が後ろを振り向いて、私を見た。「なに?」片耳のイヤフォンを外して訊くと、「学校どうだ」と父が訊いた。
どうって……数学は赤点だし、体育はバレーボールで手が痛いし、告白してフラれたけど、友達との会話は楽しい。
「ん、まあまあ」私が言うと、父は「そうか」とだけ言った。
混雑した駅のロータリーで車を降りた。「ありがとう」と言ってドアを閉めたとき、父は私の顔を見て頷いた。
車を見送って、はあ、とため息をついた。がんばれ私。傘を握りしめ、小走りに改札口に向かった。
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