うちはもうダメかもしれない

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──なんてこと。異常は我が家族ならず、そのお隣にまで侵蝕していた。  というか、なんだその格好。ゲーム屋に張ってあるポスターそのままの、コテコテ過ぎる勇者コスって。笑うぞ。 (ねぇ。あんま想像したくないんだけどさ…) 『うむ。貴様の考えとる通りだ。勇者があの坊主に転生したらしい』  うん。杞憂であってほしかった。いや、いきなりコスプレに目覚めたとかも、それはそれで反応に困るけど。 (てか、何で勝った側の勇者までこんなとこに?) 『ふむ。あの醜い人間共のことだ。過ぎた武力に恐れをなして消したのだろうさ』  くそ、微妙に同情を誘う考察をする。だが、それはそれ。他所様の人生を勝手に乗っとるとか、いくら勇者でもやってはいけない。 「とにかく、あれをどうにかしないと──」  そう言いかけ、モニターに目を戻した瞬間。強烈な破裂音が家を揺らす。まるで目の前でダイナマイトでも爆破したかのような、凄まじい粉塵。  目の前のモニターはノイズの濁流。そして、重々しい何か、金属を引きずるような音が、玄関から転がってくる。 「──臭うぞ」  ドスの効いた声と共に、リビングの扉が蹴破られる。不気味なくらい輝く銀色の剣を携えた、幼なじみが姿を現す。 「臭うッ、魔族の臭いがッ!」  一目見てわかる。こいつは正気じゃない。ギラついた目、重々しい声色。何より、普段の申士のネアカなサルキャラとはまるっきり違う。 (…お宅の勇者さん、血の気多すぎない? 救世主(セイヴァー)じゃなくて、狂戦士(バーサーカー)の間違いじゃない?) 『いや。厳密にはあの聖剣だな。アレを手にした者は、例え女子供だろうと超一流の力を発揮できる代わり、魔族鏖殺の念に取り憑かれてしまうのだ』 (それ、セイント要素どこよ。魔剣とか妖刀の、呪いの装備じゃない) 『うむ。我も笑顔で屍の山を築く様を中継で観たときは、流石に背筋が凍った』  ガチビビリの声が脳に鳴る。想像したくないが、目の前のヤツが相当にイカれてるのが確かなようだ。 (何でそんな物騒な品が?) 『むう。我の心臓一突きにした際、連戦が祟ってか刀身が折れてな。おそらくその時…』  剣までこっちに転生(押し付け)するの。ホントに在庫処理じゃない。  そうこうしていると、あの勇者(イカれ野郎)と化した申士が、辺りをぐるりと見回してから、うちを鋭く睨み付ける。 「──貴様がやったのか?」  彼が言うのは、この光景についてだ。一家揃って、何者かに殴打され昏倒。そして、うちが鈍器とおぼしきモノを持っている。 「…あ、やばっ」  反射的にフライパンを後ろに隠す。確かにこの状況、端から見たら一家虐殺(死んでないけど)の現場だ。 「あー、これは。事情が…」  くそ、言い訳したいけど、冤罪と胸を張れないのが酷い。さっきまでの状況を説明しても、とても弁明が効くとは思えない。 「──貴様からも魔族の臭いがするぞッ! 今すぐに首を跳ねてやるッ!」  聖剣(のろいのつるぎ)を構え、全身から敵意を滲ませる。最早、対話は不可能だった。 「チェストォぉぉおおおお!!」
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