うちはもうダメかもしれない

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 騒ぎを聞き付けたのか、それとも今頃起きたのか。ぞろぞろと足音がリビングに集まってくる。 「何だ何だ、朝っぱらから騒がしい」 「僕、今日バイト午後からなんだからゆっくりさせてよ」 「にゃ~ん?」  大学生のお兄ちゃん、リーマンのお父さん、我が家のペットであるネコの赤身。彼らにも目で見てわかるほどの異常があった。  おおよそ人類の進化の系譜からは生えてはこないだろう、動物のような角。それが皆の頭蓋からそびえ立っている。 「どうした、古楓。僕らの顔に何か付いてるのか?」 「いや、付いてるっていうか、生えてるというか…」  うちの言葉に首を傾げながらも、特に気にする素振りはなく、皆食卓における自身のポジションに移動する。 …またしても異常なことが起こっている。まさか、うちはまだ悪夢の延長線上にいるのではないかとさえ想像してしまう。  ふと、指先にフォークが当たる。こいつを首辺りに思い切りブッ刺せば、今度こそ目が覚めるのでは? 『待て。物騒なことはやめろ! 死ぬぞ、我みたく!』 (そのジョークは笑えないんだけど!?)  反射的にツッコむが、この状況は冗談だと言いたい。あまりに異常すぎて、一周回って自分がおかしいのではと錯覚さえする。 (何あの角? 夢の中のあんたにも生えてた気がするけど) 『あれなるは魔族の証。角が雄々しき程人間共でいう美男美女でな』 (…へぇ。逆は?) 『推して知るべしだ。角なしが差別の対象になる程には、我らにとって重要な存在。ひび割れ、まして圧し折られた暁には自我の崩壊も有り得──』  脳内の悪霊が言い終わるより早く、うちは近場にあったフライパンを手に取る。 「みんなごめんなさーいっ!!!」  そして、目の前の家族に向けてフルスイングする。まるで鉄板にバットをぶつけたように、震動が両腕に伝わってくる。 『ナニやってんだ貴様ーっ!?』  脳内に響く、変態の悲鳴。実に喧しい。このくらいでピーピー言うな。  突然の事態に対応できなかったのか、皆直撃をもらって気絶する。  しかし、肝心の角はひび割れはするものの、砕けたりはしなかった。
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