うちはもうダメかもしれない

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「角堅っ。どうすっかなァ、これ」  痺れが残る両手を振りながら、さてこれからの処置を考えていると、また脳内から声が流れてくる。 『さ、流石我が軍勢最強を誇る四天王の魂。そこいらの輩に遅れは取らんか』 (そこいらのヤツに遅れを取ったヤツの軍団の最強って、たかが知れてるような…) 『貴様、王が戦士より強いとかあり得んだろう。事務仕事ならともかく、切った張ったは彼等の領分よ』 (自信満々に言うこと? それ) …待って。四天王全員転生とか、普通にどんな確率だ。そっちの御方、わざと押し付けたんじゃないのか。 『しかし貴様、躊躇というものがないのか。仮にも親族ぞ? 我らより鬼畜じゃない?』 (バカ言ってんじゃないわよ。身内が得体の知れないモノに取り憑かれたんなら、何とかすんのが義理ってモンよ)  というか、さっきからノリがおかしくなってきてない、このクソ魔王。心なしか、声色に震えが見えるんだけど。 『しかし、奴等もこちらに来てしまうとは。これも縁か』 (在庫一斉処分の間違えじゃなくて? それよか、お仲間御一行纏めて我が家に転生とか、迷惑極まりないんだけど?) 『え、そんなこと我に言われても』  いや、マジふざけないでよ。こんなことなら、夢の中で炎の剣あたりでもイメージして、確実に殺っとけばよかった。 (しっかし、なぜ皆揃って転生を? まさか主要メンバー全滅?) 『うむ。恥ずかしながら、勇者一行に軍団ごとジェノサイドされてしまってな。仕方あるまい』 (容赦無さすぎでしょ、一族郎党鏖殺とかどっちが悪魔よ)  その徹底ぶりせいでこんなところにしわ寄せが来るとか、ノストラダムスでも予測できないわ。 (まあいいわ。確か倉庫に鋸があったはず。遅刻覚悟でケリ着けるとしましょう) 『ええい、何と恐ろしい女よ。暫し止まらんか』 (るっさい。あんたも後で塩撒いてやるから、首洗って待ってなさい)  うちが決意をもって踵を返した途端、ピンポーンという耳慣れた音が転がってくる。  宅配にしては早すぎるこの朝に用がある人間など、心当たりが一人しかいない。 「…やっぱり。もうそんな時間だったかぁ」  備え付けのモニターへ目をやると、ニカッとした笑顔が似合う、いかにもネアカな少年が手を振っていた。 『なんだこやつ。よもや貴様のつがいか?』 (ブッ殺すわよ。隣に住んでる、幼なじみの横振申士(よこふりもうじ)よ)  モニター越しに映る姿は、相変わらず日常の一部と化し、しかして喧しい。  薄紅色の芝生のような髪、やんちゃさを示す浅黒く焼けた肌、宝石のはまった額当てに銀色の剣。実に見慣れた──、 …待て。何か見覚えのない、それこそ現代日本のファッションに準えたら、コスプレの括りに置かれるような…。 「おはよう、古楓! 今日も魔族をぶちのめす冒険の始まりだぞッ!」  この、どうみても頭沸いてる発言。爽やかさとは裏腹に言葉は血生臭い。  そして背負い込むのは、銃刀法待ったなしの刀剣類。……なんてこった。役満だ。 「──あんたもかよォオオオオ!?」
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