1人が本棚に入れています
本棚に追加
「角堅っ。どうすっかなァ、これ」
痺れが残る両手を振りながら、さてこれからの処置を考えていると、また脳内から声が流れてくる。
『さ、流石我が軍勢最強を誇る四天王の魂。そこいらの輩に遅れは取らんか』
(そこいらのヤツに遅れを取ったヤツの軍団の最強って、たかが知れてるような…)
『貴様、王が戦士より強いとかあり得んだろう。事務仕事ならともかく、切った張ったは彼等の領分よ』
(自信満々に言うこと? それ)
…待って。四天王全員転生とか、普通にどんな確率だ。そっちの御方、わざと押し付けたんじゃないのか。
『しかし貴様、躊躇というものがないのか。仮にも親族ぞ? 我らより鬼畜じゃない?』
(バカ言ってんじゃないわよ。身内が得体の知れないモノに取り憑かれたんなら、何とかすんのが義理ってモンよ)
というか、さっきからノリがおかしくなってきてない、このクソ魔王。心なしか、声色に震えが見えるんだけど。
『しかし、奴等もこちらに来てしまうとは。これも縁か』
(在庫一斉処分の間違えじゃなくて? それよか、お仲間御一行纏めて我が家に転生とか、迷惑極まりないんだけど?)
『え、そんなこと我に言われても』
いや、マジふざけないでよ。こんなことなら、夢の中で炎の剣あたりでもイメージして、確実に殺っとけばよかった。
(しっかし、なぜ皆揃って転生を? まさか主要メンバー全滅?)
『うむ。恥ずかしながら、勇者一行に軍団ごとジェノサイドされてしまってな。仕方あるまい』
(容赦無さすぎでしょ、一族郎党鏖殺とかどっちが悪魔よ)
その徹底ぶりせいでこんなところにしわ寄せが来るとか、ノストラダムスでも予測できないわ。
(まあいいわ。確か倉庫に鋸があったはず。遅刻覚悟でケリ着けるとしましょう)
『ええい、何と恐ろしい女よ。暫し止まらんか』
(るっさい。あんたも後で塩撒いてやるから、首洗って待ってなさい)
うちが決意をもって踵を返した途端、ピンポーンという耳慣れた音が転がってくる。
宅配にしては早すぎるこの朝に用がある人間など、心当たりが一人しかいない。
「…やっぱり。もうそんな時間だったかぁ」
備え付けのモニターへ目をやると、ニカッとした笑顔が似合う、いかにもネアカな少年が手を振っていた。
『なんだこやつ。よもや貴様のつがいか?』
(ブッ殺すわよ。隣に住んでる、幼なじみの横振申士よ)
モニター越しに映る姿は、相変わらず日常の一部と化し、しかして喧しい。
薄紅色の芝生のような髪、やんちゃさを示す浅黒く焼けた肌、宝石のはまった額当てに銀色の剣。実に見慣れた──、
…待て。何か見覚えのない、それこそ現代日本のファッションに準えたら、コスプレの括りに置かれるような…。
「おはよう、古楓! 今日も魔族をぶちのめす冒険の始まりだぞッ!」
この、どうみても頭沸いてる発言。爽やかさとは裏腹に言葉は血生臭い。
そして背負い込むのは、銃刀法待ったなしの刀剣類。……なんてこった。役満だ。
「──あんたもかよォオオオオ!?」
最初のコメントを投稿しよう!