はなびらエール

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**  竹久は既に一組の封筒から出した桜の花弁(はなびら)形のメモを、それぞれ先生の名前を書いた封筒に分け始めてくれている。  謝恩会でお礼を伝えられない卒業生たちにクラスごとにメモを配った。自分が感謝を伝えたい先生にお礼の言葉を送る。もちろん強制ではない。何人に書いてもいいし、書かなくてもいい。でも各クラスで集めてもらった封筒は、どれもそこそこの厚さになっている。 「あれはどうするんすか?」  私の鞄を置いたデスクの上にある、まだ何も書かれていないメモの束を見ながら竹久が聞いた。 「状況によって私も足そうと思って」  少ない先生には、私と前副会長が感謝の言葉を書いて足すつもりでいた。せめて二枚、でも一枚だ。 「っすね」  竹久はそう言って作業に戻る。 「生徒会長としてそういうとこ見習うって言っても、もう終わりですけどね」  なんとなく淋しそうな彼に 「次も立候補すればいいじゃん」と励ますように言った。 「なんもできてないですからね、今期の生徒会」  私が生徒会長をしていた前期のほとんど、全校生徒が登校することがなかった。生徒会としてやりたかったことも何一つできなかった。何もできないまま後期の二年に生徒会のバトンを渡した。竹久に生徒会長のバトンを渡した。  体育祭、文化祭、生徒会に派手な動きがあるのは後期だ。でも各部活動の予算配分や、年間行事の日程調整など、地味だけど前期にも大切な事々がある。いやあったはずだ。今年度はすべてが先生方に委ねられた。私たちは登校できなかったのだから。  竹久が生徒会長になった後期も、結局なにもできなかった。 「もう進路決まってるんですよね?」  二人で黙々と手を動かしていたとき、竹久がそのまま動きながら言った。 「うん」  受験はすべて終わっている。第一志望はだめだったけれど、滑り止めの推薦は合格している。明日、入学金を振り込むと母が言っていた。 「卒業式はできることになってよかったっすね」  竹久は相変わらず私の方は見ずに言う。 「そうだね、学年集会みたいになるけどね」  私も手を動かしながら、竹久を見ずに答えた。 「せめて桜、間に合いますかね?」  間に合うのだろうか? 校門横の桜並木はまだ堅い堅い蕾を抱いていた。 「どうだろうね」  やっぱり彼を見ずに答えた。  三年になって前期生徒会長になったとき、いろんなことをしたいと思った。コロナによる休校が開けたらすぐにいろいろな改革に着手しようと思っていた。部活の活動制限と同じように、生徒会の活動制限まで入るとは思っていなかったから。  あらゆることを諦めて茫然と過ごした2020年度生徒会は、議事録に記すことがなにもない空白の生徒会として記録に残ってしまう。
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